笹呉れ少年

藤泉都理

笹呉れ少年




 心がささくれだった時。

 私は竹林にいる笹呉れ少年に会いに行く。




 れ。

 (相手が自分に物を)くれる。

 (自分が相手に物を)与える。やる。




 笹呉れ少年というのは、笹をくれる少年の事だ。

 恐らく、妖怪。

 深夜。私が酔っぱらって竹林に彷徨いこみ、脱出するのが面倒になって寝転んでいた際に、目の前に現れたのだ。

 笹を持ち、笹色の着物を身に着け、ぴょんと飛び出すように前髪を結んだ少年が。


「これやるからさっさと家に帰れ」


 少年は持っていた笹から葉っぱを取ると、あっという間に笹舟を作って、私にくれたのだ。

 そんなものはいらねえ、ふっかふかの布団を寄こせ。

 頭の中ではその言葉が浮かんでいたのに、笹舟を受け取った私は何故だか急にあんなに重かった身体が軽くなって、気づけば家までスキップをして帰っていたのだ。


 翌日、二日酔いに苦しむ身体を引きずりながら、竹林へと向かって中に入って行くと、昼にもかかわらず、あの少年はいた。


「おう。妖怪じゃなかったのか?おまえ」

「おれの名前は、笹呉れ少年だ。妖怪だかなんだか知らねえ」

「そうか。私の名前は民田みんた。昨日は笹舟をありがとうな。おかげで家の布団で眠れたわ。ほい。お礼の笹。私の家で勝手に生えたの持ってきた」

「うむ。まあ。もらっておこう」

「うん。ありがとな」


 ちょっと失敬。

 私は断りを入れてのち、地面に腰を下ろした。

 少し期待していたが、笹呉れ少年と会うだけでは、身体の不調が消えるわけではないようだ。


(いや別に、少しだけだからね。期待していたの。それが目当てじゃないからね。お礼が目的だからね)


「おっちゃん」

「誰がおっちゃんじゃ。まだ四十歳になったばかりだわ。おっちゃんは五十を過ぎてからだわ」

「うむ失礼した。民田。あのな。おれは別に摩訶不思議治療師ではないぞ」


 私は胸の前で腕を交差させた。


「いやん。私の心を読んだわね」

「気持ち悪いか?」

「いや別に、読まれて困る事ねえし」

「うむ。そうか」


 笹呉れ少年は私の前に座ると、私があげた笹から葉を取って、笹舟を作り始めた。

 私も久々に作ろうとしたが、作り方を忘れてしまったので、笹呉れ少年に教えてもらった。

 結局、私が持ってきた笹についていた葉だけでは足りず、また次の機会に教えてやるから帰れと言われたので、渋々と帰って行ったのであった。






 私は心がささくれだった時、竹林にいる笹呉れ少年に会いに行く。

 会いに行って、一緒に笹船を作る。

 笹を破いてばかりで笹船をまだ作れないが、どうしてだか、癒されるのだ。


「民田は本当にへたくそだな」

「うるせ。次こそは必ず作ってやる」











(2024.3.11)




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笹呉れ少年 藤泉都理 @fujitori

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