坂村健吾の赤熊猫

作家:岩永桂

「さかむけ」と「ささくれ」

坂村健吾の赤熊猫


俺の名前は坂村健吾。どこにでもいる大学三年生だ。

先月、ぱあぷるってスナックで呑んでいた時の話なんだけど

何て言うのかな、赤パンダ? 赤熊猫? がソファですやすや寝てたんだ。

相手がパンダっていってもさ、

黒い部分が赤いし、爪も鋭利そうだったんで絡まれない内に帰ろうとしたら

御愛想の時に目が合っちまって、もろに興味持たれたって訳なんだ。

「……ささくれ。笹くれ」ってタチが悪いだろう?

ささくれが痛いんだと思ったから、財布から絆創膏を出そうとしたら

(……それ、喰いもんじゃねぇじゃん)って顔でこっち見てんだ。

主食の笹が欲しいと解ってからは、青果店若しくは生花店巡りよ。

案外、生花の方に置いてあったりしてよ。

……で、そんな赤パンダさんとの共同生活が始まった訳なんだが

彼女、案外、料理が上手でよお(メスなんだ、へぇ……)。

味噌汁とか作らせたら、料亭のそれをしのぐクオリティで

春キャベツなんかを適量に刻んだりしてよお、

いい嫁さんになるよ、って心の底から褒めたらプロポーズみたくなって

「まさか、だけど……?」

「今月の16日に入籍することになった」

「何、赤白の熊猫に味噌汁芸仕込んで、

人生という名のサーカスを公演していくことになったの?」

こんな話を聞いて切れない方が不思議だわな。

彼女は俺の、元婚約者だった訳だから。

「九尾の狐を振って、赤い熊猫と添い遂げるなんてサイテー。」

硝子コップの麦茶を引っ掛けて、アパートを出ていく

九尾の狐の元カノ。まあ、たらしの俺が悪いか。


坂村健吾って何気に紹介したけど、少年時分は

さかむけって呼ばれていたよ。

さかむけとささくれの夫婦が入籍だなんてハッピーエンドだろ?

スナックで笹を要求したのは茶目っ気らしいけど

好物に違いはないらしい。

じゃあ、今日も、近所の田中財閥さんに事情を話して

笹を分けてもらいますか。

フィアンセ思いのさかむけは、今日も軍手を嵌めて

田中財閥の大手門をノックする。

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坂村健吾の赤熊猫 作家:岩永桂 @iek2145

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