小さな頃から悪ガキで【KAC20244・ささくれ】

カイ艦長

小さな頃から悪ガキで

 俺はつねにひとりだった。

 小さな頃から悪ガキで、なにかに迫られているかのようにすべてに反抗してきた気がする。

 大人に対してだけでなく、同学年に対しても。

 自分のことはもちろん、他人のことにも反抗した。

 そうして自分を守ることでしか、安寧を手に入れる術が見当たらないかのように。


 そんな俺にも幼馴染みはいるものだ。

 同じクラスの女子・榊は俺より背が高く、いつも反抗的な俺を軽くあしらうほどに強かった。

 いや、正確には彼女の背丈は標準的な身長なのだ。俺の背が低いだけ。

 この低身長がコンプレックスだったから、俺は何者にも反抗しているのかもしれない。


 昔、中国の三国時代に魏の国を興した曹操は、他の英傑と比べて背が低かったのだという。

 そのコンプレックスを抱えながら、自分より体の大きな英傑を手駒として従え、最強の国家を作り上げたのだ。

 そして曹操は一代の傑物である関羽をどうしても手に入れたがった。

 関羽の主君・劉備が袁紹のもとへ落ち延びた際、はぐれた関羽に曹操は手を差し伸べた。しかし劉備の消息がわかれば曹操のもとを去るという条件が付けられた。

 そして戰場において袁紹の配下である武将の顔良と文醜を相次いで斬り殺した関羽は、劉備の健在を知ると曹操のもとから去っていった。

 顔良と文醜を斬ったことで義理は果たしたと考えたのだ。


 俺は成り行き任せが大嫌いで、他人の敷いたレールを走ることが嫌いだった。何者にもとらわれず自由に生きたかったのだ。

 それが結果わがままに見えたとしても、俺なりの筋の通し方なのである。

 俺は、男子生徒からケンカを売られてばかりいた。男子生徒はグループ意識も強く、同じ小学校出身者がグループを形成しているのだ。その輪に入らない生徒は目をつけられる。

 だが、俺は抵抗をやめなかった。

 その姿を見た同じ小学校出身の榊が、俺に手を差し伸べたのである。


「中学生にもなってケンカするなんて、男子ってろくなものじゃないわね」


 そう語った榊は、ケンカの原因にはまったく頓着しなかった。

 ただ、正直になれない俺によく語ったものだ。


「女子のケンカは陰湿だけど、男子は殴り合えばすっきりしてそれで終わり。よっぽど楽でいいわね」

 ケンカっ早い俺ほどではないが、榊も学友は少ないようだった。


 中学は、体の成長に心が追いついていない、不安定な時期である。

 ゆえに何者にも反発し反抗してしまう年頃だ。


 「反抗期」なんて大人は言うが、周囲が思い通りになるやつに反抗期は来ない。代わりに俺のように小学から反抗しているようなやつもいる。

 世の中すべてが思いどおりにいくわけではない。


 曹操が関羽を配下にし損ねたのも、関羽が曹操の思い通りにならなかったからだ。

 榊は今でこそ俺と親しくしているが、いつ思い直して去っていくのかわからない。


 俺は曹操のような傑物を目指すべきなのか。

 関羽のように義理を果たすことを信条とするべきなのか。


 人生のささくれた時期。

 なににでも反発し反抗してしまうのは、おそらく誰も避けては通れない道なのだろう。



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