やさぐれ

ハヤシダノリカズ

ささくれ

 あぁ、叫びたい。

 何を?

 それは分からない。


 太宰治は彼の作品の中でこう書いている。

【大きな、櫓太鼓みたいなものを、めった矢鱈に打ちならすような音楽でもあったら、いまの僕のいらいらした気持にぴったり来るのかも知れない。けれども、そんな音楽は、世界中を捜してもないだろう】と。


 その気持ち、分かる。そして、現代にはそんな音楽が沢山ある。

 派手に打ち鳴らすドラムに、重低音のベースを重ねたロックやパンクやメタルが僕の心を癒す。そんな事は珍しくない。

 甘い恋の歌でそういう気分に浸れる幸せが遠い過去のものになって久しい。

 歌詞なんざどうでもいいんだ。何を歌っているかなんてどうでもいい。とにかく派手にやってくれ。


 ささくれ、やさぐれ、自暴自棄。

 世界に幸福が溢れているように見えた時、自分の恵まれなさに絶望してしまう。

 その幸福よりも、世界には過酷な境遇がずっと多い事も知っている。それに比べれば、自分が恵まれている事は事実だろう。だが、その事実は僕を癒してはくれない。


 あぁ、叫びたい。

 叫びたいんだ、なにかを。

 イイコチャンで居続けてきた僕には、それを言語化する能力が足りない。

『真面目系クズ』ネットで見かけたそんなワードが頭に過る。

 感情を表出する事をないがしろにし続けてきたツケが僕の心を苛んでいる。


 叫べ、叫べ、叫べ。

 でも、何を?


 無闇に誰かを傷つけちゃいけないというリテラシー。そこからはみ出したら、今の世じゃ生きていけないというのに、何を?


『我慢強さは、現実逃避能力の高さに比例する』そんな事を誰がが言っていた。

 僕は我慢強くなんてない。でも、現実逃避能力はきっと高い。


 その現実逃避能力が、僕に小説を書かせている。

 僕の書く小説は、そんな毒を料理したものだ。美味しく仕上がっていればいいな。出来れば完全に無毒化出来ていればいい。


 欲を言うなら、薬にまで昇華出来ていればいいな。


 でも、そうはなっていない事を、誰よりも僕が知っている。

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