花屋の君の絡繰箱

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花屋の君の絡繰箱

 お土産に貰った寄木細工の絡繰箱をテーブルに置き、どうやって開けようかと考えあぐねいている。この箱は別名秘密箱ともいう。箱の側面を押したり動かしたりして一定の操作をすれば、箱が開くという仕掛けの箱だ。

 どうやら以前「絡繰箱が気になる」という話をしていたことを友人は覚えていたのだろう。友人の出身が寄木細工の有名な土地であったから、実家に帰ったときに買ってきてくれたらしい。それを昨夜飲みに行ったときにくれたのだ。


 二ヶ月ぶりにあった友人は、いつものように少し困った顔ではにかみながら笑う。一月に学年末テストが終わった後はしばらく会っていなかった。大学四年生という、ゼミの旅行や就職先への準備をしている期間であったから会う機会を作れなかった。花屋でバイトをしている友人は、そのままその花屋に就職することにしたのだという。その日も友人はバイト帰りで、微かに香る花の匂いを携えて居酒屋へとやって来た。

 この友人は、酒を飲ませるに限る。

 シャイな性格で、あまり自分のことを話さない。聞き上手だから、気付けばこっちが話し続けてしまうことになる。けれど友人は話してみたら案外面白い。そして酒さえ飲めば、口が緩んで自分のことを話してくれるようになる。

 会ってなかった二ヶ月の間は、ゼミの卒業旅行でイタリアに行ったらしい。その前後は実家に帰っていたから、姉夫婦に揉まれたり弟に恋人はいないのかと問い詰められたりして大変だったという話を酔いに任せて話してくれた。

 そうしている内にお開きの時間になって、居酒屋を出ることにする。卒業したらあんまり会わなくなるかも知れないかななんてことを思いながら、駅のホームで別れたのだった。

 飲みに誘うのはいつも自分からだから、向こうがどう思っているのかまでは知らなかった。迷惑だと思っているかも知れないけれど、誘えば来てくれるからそれに甘えている。けど本心は分からないから、卒業したらあんまり会わなくなるかも知れないかななんてことを思う。

 大学の間は毎日のように会えたこの友人がいたから楽しく過ごせたと言っても過言ではない。だから会いにくくなることを少し寂しく思いながら腕に持っている袋を振り帰り道をとぼとぼと歩いた。

 私の手には、帰りがけに貰ったお土産が提げられていた。そのお土産こそが、絡繰箱なのだった。そして数日間この箱に悩まされることになる。

 どうやらこの箱は一度開封されている跡がある。その証拠に、振るとサカサカと囁くような音がする。説明書を見たところ、八回の仕掛けで開くことは分かっていた。

 そして数日を掛け、この度やっと開けられた。

 中に入っていたのはミモザの花だった。

 絡繰箱にミモザの花。

 ……謎が増えた。どういう意図があるのか、さっぱり分からない。

 何か手掛かりを掴もうとミモザについて検索していくと、花言葉は「感謝」であるらしい。そこにもう一つ気になった事柄を見付けた。

 イタリアには《ミモザの日》というものがあり、日頃の感謝している人にミモザを送るそうだ。なるほど、これにはピンと来ることがある。飲み会をしたのは、丁度三日前のミモザの日である三月八日だったからだ。

 つまりこれは、『大学の間の四年間感謝している』……という意味にとって良いのだろう。

 思わず笑いが溢れてしまった。

 伝え方までシャイ過ぎる。

 花言葉を調べたときに知ったのだが、ミモザはドライフラワーにもなるらしい。

 それならばと私は一旦ミモザを箱に、その気持ちを大切にするように、再びしまう。きっとミモザのドライフラワーは、花の色は時間が経っても黄色いままであるのだろう。互いを思う気持ちのように色褪せずにそこにあって欲しい。

 今まで飲み会に誘ったのも喜んでいてくれたのかもしれない。それならこれからもちょくちょく誘おうかな、と前向きな気持ちになる。

 答え合わせのためにも近々飲みに誘わないとな、と箱を家で一番見えるところに置いてミモザの君のことを思い浮かべた。

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花屋の君の絡繰箱 2121 @kanata2121

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