餓鬼の箱

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餓鬼の箱


「ええと、つまり、部屋の真ん中にコレがあったんですね?」


 事務所の中でさえない風体の青年が尋ねて来た。


 彼の言うとは、四角い塊である。なんの塊かと言うと人間の、である。


 もっと正確に言うなら『元』人間の塊——死体である。


 コンパクトに四角く固められたソレは社長の死体だ。社長が居なくなれば、この会社は甥の僕の物だ。


 僕は路頭に迷っていた所をこの会社の社長である叔父に拾ってもらっていた。金属を取り扱う会社で、最近流行りの熱伝導で変形する素材を扱っている。


 ウチで扱うのは膨張率が高い素材で、温めるとおちょこがマグカップになる商品がウケたのである。デザインも特殊で、コーヒーを注いでいるうちにおちょこがマグカップに変身するのだから爆発的に売れたものだ。


 これで財を成した叔父には親族が僕しか居ない。若い時には結婚もしたらしいが今は独身だ。子どももいない。


 そこで僕の出番である。


 しかも叔父の下で社員として働いていたから会社のこともよく分かっている。


 これで僕が叔父の会社も継がないわけがない。


 そして僕は決行した。


 キッカケ?


 そんなものは些細なものだ。ちょっと欲が出たとでも思ってくれればいい。


 ただ凶器を片付ける前に、事務所にこの青年がやって来たのが予想外である。早く帰って欲しいものだ。


 青年は科学雑誌の記者で、掛川と名乗った。


 掛川は部屋の中を一瞥した。


「床が濡れてますね」


「掃除しようとしててコレを見て驚いてしまって」


 バケツの水を——と説明する。


 部屋の真ん中には四角い死体。


 ロッカーと書棚、机が二つと椅子二つ。書類の乗った応接セット——。


 しかしどんなに探しても社長を四角く潰した凶器は見つからないだろう。


「やけに事務机の上が片付いてますね」


 ギクリ。


 そ、それに気がつくとは……。


「最近、この会社で新しい金属素材を開発したと聞きましたよ。電気を通すと縮む性質があり、水をかけると元に戻るとか」


 ドキン!


 心臓が跳ねる。


「ああ、その素材で箱を作ったんですね。その中に社長を入れたんでしょう? そうですね、社長には膨張して部屋になるとか言ったのかな」


 ガーン!


 頭がクラクラする。


「うん、そんな感じかな。それを信じた社長は中に入って、貴方は電気を流して箱を縮めた——圧縮された箱の中にいた社長は当然そのサイズまで潰される」


 掛川は明るく言った。


「元の大きさに戻った箱は、そこにある二つのコの字型の事務机でしょ?」



 完

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