『箱推し』は誰も好きじゃないのと一緒だと迫害される掲示板で、『箱推し』の彼だけが私を愛してくれる。

米太郎

第1話

『箱推し』とは、アイドルグループ全体を推す行為。

 それはつまり、アイドルグループ全体が好きということ。


『箱推し』と似た言葉に、『DD』という言葉がある。

『誰でも大好き』という言葉の頭文字を取ってきて、『DD』と呼ぶ。

 アイドル事情に疎い人からすれば、『箱推し』も『DD』も変わらないんじゃないかと感じてしまうかもしれない。


 だけど、全然違うの!!



 私は、グループメンバーのみんな好きだけれど、誰でも良いって訳じゃない。

 全員が揃うから良いんだよ!

 全員での掛け合いがあるから尊いんだよ!


 そこら辺を理解しろよ!!



 グループメンバー全員を押してる『全推し』でも無いし、個々のグループを推してる『G担』とも、少し違う。

 その辺の言葉の違いもあるけれども。

 そこは、論点がズレてるの!



 ――ピロン。


「え、未来みくちゃんって、『箱』だったの? ‌あれだけ熱く語ってたのに? ‌ちょっと引くわ……」


 こういうメッセージが飛んでくると、もう終わりだ。

 この子とは、相容れない。

 一応、私の意見も言っておこう。



「……けどさ。やっぱり、みんなメンバー一人一人が良いじゃない? ‌みんなが揃うから尊いのであってさ」



 ――ピロン。


「『箱推し』が何言っても薄っぺらいんだよね? ‌愛が薄いよ。全然ダメ」



 私が推してるアイドル界隈では、『箱推し』は嫌われるのだ。

 特定のアイドルを推す人達にとっては、『箱推し』は愛情が足りないと言われる。


 この言い方は、まだ優しい方だったりする。



 ――ピロン。


「『箱推し』のくせに、私の推しを語らないでくれる? ‌まだ別の担当の人の方が話が合うわ」



 ――ピロン。


「それで、未来ちゃんは結局誰が好きなの? ‌一人に決めないなんて誰も好きじゃないのと一緒だよ? ‌もしかして誰も好きじゃないの? ‌それなら、なんでここにいるの?」



 ――ピロン。


「『箱』か……。にわかなのが、丸わかりだね。まだ浅いんだね。もっと見た方が良いよ。ここに来るのはまだ早いね。早く見てきな」



 ……。



 ――ピロン。


「見た所で、箱推しの思想になんて変わらないと思う。だから、もうこの掲示板に来ないでくれる?」


「愛が薄い人の話を聞いてもシラケるから。『箱推し』は、どこか違う所で一人で鑑賞しておきな」


「誰か一人を好きになれるようになれればいいね? ‌けど、誰も好きになったこと無いから、無理な話か」


「はははは」



 ‌……。


 私は思いっきりスマホを握りしめて、勢いよくベッドに叩きつけた。


「あああああぁーー!! ‌クソがぁぉーーー!!!! ‌ ‌ここの掲示板は、民度が低いんだよぉーーー!!!」


 ――ピロン。

 ――ピロン。

 ‌――ピロン。



 私が返信しない間に、精一杯私のことを罵ってるんだろうな。

 『箱推し』の何がいけないっていうんだよ……。


 枕元にいる『ぬい』達。

 猫木るるちゃん。歌夜セヤちゃん。神見葉子ちゃん。

 他のメンバーもちゃんといる。

 ‌グループの全員が私を見つめている。


 私の方が、こいつらよりファン歴は長いし、グッズだって全部コンプリートしているんだよ。

 ‌アイドル活動に貢献してるんだよ。


 私の部屋は、アイドルグッズで埋めつくされている。


「箱推しが一番のはずじゃん……。なんでみんな分かってくれないの……」


 最後に、思い切り捨て台詞を吐いてから掲示板を抜けようとすると、一件見慣れない人からのコメントがあった。



「『箱推し』って、一番尊いですよね。僕は分かりますよ」

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『箱推し』は誰も好きじゃないのと一緒だと迫害される掲示板で、『箱推し』の彼だけが私を愛してくれる。 米太郎 @tahoshi

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