箱の中には……?

夢水 四季

とある絵描きの哀愁

 私は絵描きだ。

 今日も外に出て作品を描いている。

 

いつもの公園に着いた。

ベンチに座り、画材を広げる。

今日は滑り台とブランコのある風景を描こう。

まずは鉛筆でスケッチをしていく。


ブランコを描き終えたところで、公園で遊んでいた二人の子どもが、私に歩み寄って話しかけてきた。

「おじさん、こんにちは」

「こんにちは」

 私は30歳半ばで、おじさんと言われる見た目なのは重々承知している。

 しかし、実際に子どもに、そう言われてしまうと心に来るものがあった。

「お絵描き上手だね」

「ありがとう」

「ねえ、かわいいウサギの絵を描いて!」

「あっ、ずるい! わたしはネコがいい!」

「分かった、分かった。順番だよ」

 私は新しい紙に兎を描き始めた。

 黒鉛筆で輪郭を描き、薄茶色で色を付けていく。

「はい、完成だ」

「……あんまりかわいくない」

「そうかい。すまないね」

 確かに、少しリアル過ぎたか。

「ピンクのかわいいうさちゃんにして!」

「まって! つぎは、わたしのネコ!」

「猫も可愛く描いてほしいのかい?」

「うん!」

「毛の色は?」

「水色!」

 そんな猫は存在しないが、空想上の生き物と思って描いてみよう。

 私は水色のロシアンブルーをイメージして描いた。

「はい、出来たよ」

「う~ん、なんかちょっとちがうかも」

「何が違うんだい?」

「もっと、お目目がキラキラ光っているの!」

 私はアニメのキャラクター的な絵は苦手だった。


 それから二三度、彼女達の要望を聞き入れて絵を描いてあげたが「なんか違う」と言われて、

私は途方に暮れた。

 そこで一つの案を考えた。


「はい、この箱の中に君達の言う兎と猫が入っているよ」

 星のおうじさま大作戦。

「…………」

「…………」

 少女達は、少し黙った後、怒って、こう言った。

「ただの箱じゃん!」

「変なおじさん!」

 どうやら彼女達に星のおうじさまのような発想力はなかったらしい。


 その後、二人の少女は帰っていき、私はスケッチの続きに戻った。

 公園通いは続けるが、どうかどうか通報はしないでもらいたい。



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箱の中には……? 夢水 四季 @shiki-yumemizu

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