箱船がいっぱい

@me262

第1話

 とある深海探査船のチームは、歴史的に有名な艦船の沈没場所を次々に特定した事で有名になったが、ある日、未調査の深海で異様な船団が沈んでいるのを偶然発見する。

 どれも古い木造船で破損が酷く、無数の穴が空いている。大きさは様々だが、唯一共通した点があった。全船が箱の形状をしていたのだ。

 これを見た調査隊の長である老考古学者は唸る様に考え込んだ後、1つの仮説を立てた。

「箱船だ」

 スタッフ達は動揺する。

「これが箱船?何故こんなに沢山?」

「箱船は1つじゃない。シュメール、ギルガメシュ、ギリシアの神話にも箱船伝説はある。我々が知らないだけで、他の地域でも箱船が造られていたんだろう。つまり、世界中に箱船はあったんだ」

「しかし、何故この場所に箱船が集まっているんですか?」

「古代の海流は今とは違う。沈没した世界中の箱船がそれに乗り、偶然ここに終結したんだ」

「箱船が沈没?」

「破損状況を見るに、沈没したのは間違いない。神は増えすぎた悪人を一掃する為に世界中に大洪水を起こし、一部の善人だけに箱船を造らせた。しかし、実際はそれらの箱船も大洪水には勝てずに沈んだんだ。ここはその墓場だ」

「では、助かったのは我々の箱船だけですか。まさに祝福ですね」

「そうだと良いがな……」

「どういう意味です?」

「我々の箱船は未だ発見されていない。この有り様では、我々の箱船だけが無事だった可能性は低い。もしも、祖先達が箱船に乗らなかったら?大洪水をたまたま生き延びただけでは?」

「そんな!我々は悪人の子孫なんですか?」

「悪人ですらないかも。箱船が全滅して人類が絶滅したなら、自分の事を人間だと思い込んでいる、全く別の生き物かも」

「そんな……」

 震えるスタッフ達に老人が前方の沈没船を指差す。

「あの中を調べれば、本当の人類の姿がわかる。我々と同じなら、話はましだ。やってみるかね?」

 その場の全員は、死人の様な顔で箱船の群れを見つめるだけだった。

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