End

紫の光に包まれた〝幻〟の姿は、鳥の様な人間の様な奇妙な形をしていた。

その悍ましい殺気に、復讐をする気だと察して私は震えていた。


「お前、どうする気だ!?

…まさか!?…」

隣にいた〝想〟の顔色は青白くなり何かに怯え始めた。

「どうせ、もう元には戻れないんだよ。

僕には明日を生きるすべは無くなった…

このまま、悔しさや辛さを抱いて命を絶つなら、

いっそ皆消えてしまえばいいじゃないか!

そうすれば本当の意味で何も無くなる。」

〝幻〟は眩い光を放ったと思ったら、やがて真っ赤な炎を纏ながら辺りを熱く燃やしていた。

「そんな事をしても心は癒えはしないってわかっているだろ?

僕達は、そんな恨みを叶える為に居るんじゃない。

たとえ傷つけられたとしても、僕達が誰かを傷つけるなんて許されない!

僕達は特別に貰った命を自ら消しちゃダメなんだ!!」

〝想〟の訴えかける姿は痛々しくも美しく見えた。

私は、あの一枚の綺麗な羽を思い出していた。


すると、ポツポツと雨が振り〝幻〟を優しく包む様に落ちて来た。


=== お前は命を授かる時に、自ら命は絶たないと誓った。

そして、他とは違う形で生まれこの世を見守る番人として使わせた。

どんな事があったとしても、約束は絶対に果たす約束だったのにな。

仕方無い、お前には“あの世”でも“この世”でも無い狭間の空間に送らせて貰う。

哀れな〝幻〟よ。

一人孤独に苦しみ時を重ねて行くが良い。===


響きわたる声と共に〝幻〟の炎を消していった。


「今のは誰?」

〝想〟に聞くと

「僕達を創り出した人さ…

僕らは、この世に憧れカレのお陰で、小さな実から生まれ変わった。

信じられないだろ?」

私は首を横に振り〝想〟を見つめた。

「あなた達はカレの言う《狭間》って所に行ってしまうの?」

「〝幻〟は約束を守れなかったから、連れて行かされるだろうね…

僕はね、行かないよ…

でも…そろそろ居なくなる…

寿命ってヤツかな?

僕達は二人で一つの命だったから、別れてしまえば命は尽きるんだ…」

〝想〟は苦笑いをしながら空を見ていた。

「私のせい?…

だよね…

私が、あなた達の大切な羽を取ったから…」

俯きながら自分の不甲斐なさを悔やんでいた。


===そうか…

彼女はあの時の…

お前がが彼らに命を与えたのに、時を経て命を奪うなんてな……

人間は何とも残酷な生き物なのだな。===


その瞬間〝幻〟の姿は消えてしまい、真っ白な空間に幼かった頃の記憶が現れた。


〜母が病気で入院する事になり、祖父母宅に一か月近く預けられていた私は、始めは淋しくて帰りたくてたまらなかったが、ある日裏山で綺麗に輝く二つの赤い実を見つけ夢中になっていた。

見ていると淋しさなんて忘れて不思議とポカポカした気持ちになれていた。

私は何故か


〈この実が鳥になって自由に飛べたら良いのに〉


と毎日思っていた。

母の退院が決まり自宅に帰る前日に赤い実は無くなっていた。〜


「あの実が、あなた達なの?…」

私は驚いて〝想〟を見つめた。

「そうだよ。

元々はただの小さな実。

君が願ってくれたから生き物として生まれ変われたんだ。

何故だろね?カレの気まぐれかな?

僕達は君に出会えて幸せだったんだよ。」

自分でも何でそんな事を願っていたのか覚えてないのに、まして現実になるなんて夢でも見ているのかと思った。

「でも…

結局、私があなた達の運命をまた変えてしまったんでしょ?

なのに、このままじゃ…」

私は空を見上げ祈った。


・・・どうか彼らを助けて下さい。

彼らには安らぎのある穏やかな日々を過ごさせてあげたい。

私が彼らを惑わせ狂わせてしまったのなら、私に出来る事は何でもします。

だから…・・・


すると雲の隙間から虹色の光が差し声が聞こえて来た。


===何故に願う?

彼らはお前にとって、そんなに必要な存在では無いと思うが?

むしろ、お前の前から消えてしまえば、これまでの嫌な記憶を忘れさせてくれるのでは?

彼らは所詮ただの〝幻想の実〟ある様で無いにも等しい存在。

忘れるが良い。===


「私には、彼らが必要だったんです!

彼らが居たから救われていた…

私にとって昔も今も大切なんです!!」

私の訴えに応える事無く、暫く静寂な時間が流れた。

「ありがとう…」

振り向くと〝想〟は穏やかに微笑みながら消え去ってしまった。

私何かの願いは聞き入れられなかったと落胆しながら、力が抜けて座り込んでしまった。

結局、私は彼らに辛い思いをさせただけだと思い虚しさに浸っていた。


===今は、彼らには消えて貰ったが、時が経てば会えるであろう…

最後の羽で蘇るであろう…===


微かに聞こえた声と共に、辺りは日常の風景に変わっていた。

優しく私の心を癒してくれた〝幻〟…

陽気に私を助けてくれていた〝想〟…

いつの日か会えるまで忘れないと強く心に誓った。


それから五年後、私は結婚をし子供を授かった。

お腹の中には二つの命がいる。

出会えるその日を待ちながら穏やかに今日を生きている…


 〈 完 〉








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三つの羽 桜 奈美 @namishi

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