箱の中身、当てましょう!

サクライアキラ

本編

「さあ始まりました、箱の中身を当てましょう!本日も生放送でお送りしております。司会の三宮潤です、よろしくお願いします」


 童顔だが、まもなく40になる三宮のMCはいつも通り安定している。スタジオに入ったほとんど女性の観客から歓声が上がる。「ミヤさーん」という黄色い声援もある。


「今日もスタジオ盛り上がっております。それでは本日の挑戦者に入ってきていただきましょう。挑戦者一人目はこちらの方です、どうぞ」


 スーツをびしっと着た29歳のイケメンが入ってくる。観客から割れんばかりの歓声が上がる。


「本日一人目の挑戦者は人気アイドルの福地翔太さんです」


「いやいや、人気アイドルはやめてくださいよ」


「人気ではないか、メンバー脱退して落ち目の」


「ミヤさん、そんなこと言わないでくださいよ。これからうちのグループ頑張っていくんで」


「なんだよ、福地かよー」


「がっかりもやめてください」


「もっとちゃんとした人呼んでくれよー」


「いやいやいや、ちゃんとした人ですよ、僕は。今日は事務所の先輩のミヤさんの力で100万円を取って帰りたいです」


「まだルール説明してないのに100万の話やめろよ」


「すんません」


「じゃ、まあ説明します」


「さっきまでのやる気どこいったんすか?」


「お前が来たらやりにくいんだよ」


 三宮、テレビカメラと観客に向かって、「すみませんね」と冗談っぽく言う。


「それでは、いつものことながらルールを説明しますね。これから出てくる大きな箱があるんですけど、その中身を当てられたら100万円もらえるっていう簡単なゲームです。挑戦者は二人で、今日は福地ともう一人の挑戦者で対戦形式で早く箱の中身を当てた方に100万円差し上げます」


 観客盛り上がる。


「回答は一人4回までで、一回間違えるごとにヒント、合計で3回お伝えできます。あと、ヒントは答えづらい質問に答えてからじゃないと出せませんので、その辺お願いします」


「はい」


「返事良いね」


「それじゃあ、今日の箱いっちゃおっかな。スタッフカモーン」


 効果音とともに、スタッフがまるで1m四方の箱を運んでくる。


「意外にでかいっすね」


 福地、箱に触ろうとする。


「ダメよ、触っちゃダメだから。頑張って当てればいいから」


「わかってますよー」


「本当嫌な後輩だわ。それじゃ、もう来てもらおうかな。福地翔太の対戦相手、もう準備できてっかな」


「いやいや、どうせうちのメンバーとかでしょ」


 三宮、耳に入っているイヤホンの音を熱心に聞いている。


「わざとらし」


「なんと、今入ってきた情報によると、大物ゲストでした。びっくりするほどの」


「またまた」


「これはやばいね、視聴率10%上がるかな」


「それはないって」


「じゃあ、入ってきていただこうかな。それでは二人目の挑戦者の方、どうぞ」


 効果音とともに、スタジオのカーテンが掛かっているところが開き、25歳の女優が入ってくる。福地が入ってきたときと比べ物にならないくらいの歓声が上がり、観客の中には感動で泣いている人も数人いる。


 福地は固まっている。


「ということで、二人目の挑戦者は、国民的女優の飯島麻希さんです。うわー、マジで、ちょっと来ちゃいけない人来ちゃったよ。この番組予算足りてる?」


「私この番組好きなんで、ギャラなんて……」


「どうせ番宣でしょ」


「はい、じゃあ告知させて……」


「いや、させないよ。この番組告知最後だから。来たからには帰らないでよ」


「もちろんです、頑張ります」


「で、福地はさ、何固まってんの?」


「ちょっと見惚れちゃいました」


「はい、コンプライアンス的にアウトー。それさ、セクハラだよセクハラ」


「待ってくださいよ。ねえ、麻希ちゃん、違うよね?」


 麻希、クスっと笑う。


「笑ってくれたからセーフでしょ」


 麻希、笑いながら、


「福地さん、ごめんなさい」


「はい、ざんねーん」


「いやいやいや」


 三宮、わざとらしく耳のイヤホンを押さえて聞いている感を出す。


「オープニングトーク長すぎって言われたんで、早速ゲーム始めたいと思います。制限時間とかはないけど、放送時間中に終わんなかってもこの番組延長とかないから。放送時間内には当てるか外すかしてください。それじゃ、ゲームスタート。の前に、一旦CM」


 福地と麻希、コケる振りをする。


「はい、一旦CMです」




 スタッフがわらわらと出てくる。出演者の髪の毛を直す人、何かしら走り回っているAD、何となく麻希を見に来る謎のスタッフたちなどが入り乱れる。


 福地は、解答者席に座り、周りから見えないようにスマホの操作を始め、麻希も回答者席に座り、スマホを操作し始める。


『福地:麻希ちゃん、今日ゲストなら言ってよ』


『麻希:だって、一応シークレットゲストみたいな扱いだったから』


『福地:普通に朝とか言えたよね』


『麻希:翔太君、今日この収録の準備でそれどころじゃなさそうだったし』


『福地:まあそうだけど。てか、俺らのことは秘密だからな』


『麻希:もちろん、むしろ絶対言わないでね。事務所にもまだバレてないし』


『福地:うちも事務所にもバレてないし、ミヤさんにもバレてない、多分』


『麻希:まあ普通にしよ、普通に』


 福地、グッドのスタンプをメッセージに送る。


「CM明けます、3、2、1」




「それじゃあ、ゲームスタートです。ところで、二人は普段交流あんの?」


「昔、バラエティで一緒になったことあるよね?」


「いや、実は私はあんまり覚えてなくて」


「嘘でしょ、結構話したのに」


「ごめんなさい」


「福地、もう2回フラれてるのウケるわ」


「もう僕帰っていいですか?」


「はい、お疲れー」


「いやいや、とめてくださいよ」


「それで、箱の中身は?」


「これノーヒントなんすか?」


「最初はノーヒントで行くしかないでしょうよ」


「あっ、私わかったかもしれない」


「マジか」


「福地、100万取られるよ」


「はいはい、先僕答えます」


「いや、先麻希ちゃんね。麻希ちゃんどうぞ」


「土曜21時から放送の私飯島麻希が主演させていただいているドラマ『超怪奇事件ファイル4』のポスター」


「宣伝じゃん」


「さて、箱の中身はポスターか」


 『ぶっぶー』という効果音がスタジオに鳴り響く。


「はい、残念。麻希ちゃんのドラマの宣伝にうちの番組は一切興味ありません」


「宣伝できたんで大丈夫です」


 麻希、満足そうな顔。


「じゃあ、はい」


 福地、手を挙げる。


「福地、宣伝はダメよ。新曲のCDとかじゃないから、先言っとくけど」


「なんで言うんですか?」


 『ぶっぶー』という効果音がスタジオに鳴り響く。


「まだ何も言ってねーから」


「それじゃ、最初のヒント使えるけど」


「今の僕の不正解になるんですか?」


「だって、CDでしょ」


「まあ、はい」


 『ぶっぶー』という効果音がスタジオに鳴り響く。スタジオは笑いに包まれる。


「スタッフ腹立つなー」


「ということで、ヒント。出す前に禁断の質問を答えてもらうことになってるんだけど、いいかな?」


「もちろんです」


「わかりましたよ」


「それじゃ……」


 三宮、わざとらしくイヤホンに手を当てて、聞いているふりをする。


「なになに、今付き合ってる人はいますか?だって」


「いや、そこのADさんめちゃくちゃ首振ってますけど」


「でも、俺の耳にはそう聞こえたからさ、俺プロデューサーの指示は断れないから」


 観客爆笑。


「麻希ちゃん、答える?」


「ご想像にお任せします」


 観客から歓声が上がる。


「おお、否定しないんだ。週刊誌の記者さん、今ねらい目ですよ」


 麻希、苦笑している。


「それで、福地は?」


「ご想像にお任せします」


「で、どうなの?」


「ご想像にお任せします」


「いやいや、そういうことじゃなくて」


「なんで、僕のときだけ来るんですか?」


「先輩からの質問ごまかすってことないよなと思って」


「俺アイドルっすよ、アイドル」


 三宮、口調を真似て、


「俺もアイドルっすよ、アイドル」


「だるい先輩」


「じゃあ、ヒントなしってことでいいのかな」


「……、否定はしないっす」


「お?」


「ファンのみんなが恋人みたいなもんなんで」


 観客から「きゃー」という歓声。


「悲鳴が聞こえました」


「いや、歓声。俺への歓声」


「ということで、まあ仕方ないか。ヒント言っちゃおう。なんと今日来てる二人に関係するものです」


「え?私たちに関係するものですか?」


「人間ってことくらいしか、共通しないのに」


 三宮の顔がぴくっとする。


「あれ、何ですか?人とかに関係あるんですか?」


「さあどうだろう」


「いやいや、絶対そうじゃないっすか。人間系か。てか、人間系ってなんだ」


「人間じゃなくて、共通点は芸能人じゃないですか。あっ、私わかりました。今流行りの電気椅子」


「麻希ちゃん、それでいいの?これ間違ったらあと2回しかないよ」


「大丈夫です」


「さて、箱の中身は電気椅子か?」


 『ぶっぶー』という効果音がスタジオに響き渡る。観客から落胆の声が聞こえる。


「あれ」


「全然違いました、一応福地も答える?」


「答えますよ。多分芸能人なら持ってる系だと思うんで、わかりました。ブラックカード」


「うわー、生々しい。アイドルの答えじゃないね、それ」


「でも、ミヤさんもブラックでしょ」


「じゃあ、箱の中身はブラックカードか?」


 食い気味に『ぶっぶー』という効果音が響き渡る。観客から失笑が漏れる。


「めっちゃ滑ってんじゃん」


 麻希、爆笑している。


「ちょっと待って、麻希ちゃん笑い過ぎだから。福地の滑り芸台無しだから」


「ごめんなさい、この空気がおかしくて」


「ちょっと、麻希ちゃん頼むよ。てか、俺滑り芸じゃないんで」


「次のヒント行きまーす」


「このMC全然人の話聞かないじゃん」


「その前に恒例の質問ね。あっ、手にメモしたんだっけな」


 三宮、わざとらしく右の手のひらを見る。ちなみに、何も書いていない。


「絶対書いてないでしょ」


「えっと、二人の秘密を教えてください。だって」


「絶対ミヤさんの意思じゃん」


「それじゃ、麻希ちゃんありますか?」


「えー、私の秘密ですか?どうしよっかな」


 観客一人から「かわいい」という声が上がる。


「ありがとうございます」


「言われ慣れてんねー」


「そんなことないです」


「かわいい」


 福地が女声で言う。


「殴っていいですか?」


「派手にやっちゃって」


「麻希ちゃん、俺に冷たいよ」


「飯島さんな、お前国民的女優に麻希ちゃんとかダメだからな」


「なんで俺だけ」


 麻希、笑っている。


「国民的女優様も笑ってる場合じゃなくて、秘密よ秘密。秘密言ってよ」


「あ、そうですよね。なんだろうな。そうだ、誰にも言ってないことですよね」


 麻希、服の右腕をめくる。蚊に刺された跡がある。


「最近海行ったんですけどそこで蚊に刺されました」


 沈黙。


「ネタしょっぼ」


 福地はそう言って笑う。


「まあいいでしょう、ナイスな秘密です」


「ありがとうございます」


「ゆっるいなあ。審査が甘いわ、ミヤさん」


 スタジオ、ADを中心に笑って、何とか場をつなぐ。


「で、福地の秘密は?」


「僕も最近海行って、蚊に刺されて」


 福地がズボンの右足をめくると蚊の刺された跡がある。

 会場は静まり返る。


「え?お前のネタしょぼいな、とか言ってくれないんですか?」


 沈黙が続く。


「あのさ、今日2月ね。なんで二人とも海行ってんの?」


 三宮の口調が一気に厳しくなる。


 福地、「あっ」という顔をする。一瞬下を向き、福地はスマホを見ると、『麻希:それはバレるって。バカなの?』というメッセージが来ている。


「いや、今冬に海って流行ってますからね。そうだよね、飯島大女優」


「えっと、そうなんですかね、ははは」


 麻希のひきつった笑いに、会場は白けている。


「あのさ、二人はさ」


「付き合ってないです」


 麻希、食い気味に言う。


「そんな食い気味に言われるとねえ。まあ秘密聞けたんでヒントあげます。海に沈んでる、違うな、深くにいるっていうか、海のやつです」


「海に沈む?」


 麻希は一言返すが、福地は何も言わない。


「いや、福地。生放送。カメラ回ってるから集中して」


「えー、じゃあ数珠つなぎの大秘宝しかないじゃないですか」


 福地は顔面蒼白になりながらなんとか言う。


「福地。お前さ、ひとつなぎな、それ言うなら。ちなみに、もう俺言うけど、ぶっぶー。全然違うから」


「すんません」


 福地、下を向いて、スマホを操作する。


『福地:まさかあれじゃないよな』


 麻希の既読はつかない。福地、麻希をチラッと見るが、麻希は三宮の方をじっと見ている。


「じゃあ、麻希ちゃん、どう?」


「海に沈んでるものですか。なんだろうな。死体とか?」


 観客大爆笑。


「おい」


 福地、立ち上がって大声で叫ぶ。


「福地、なんだよ」


「いや、俺より面白いこと言わないでよ、それ俺の役だから」


「ごめんなさい」


「お前の役じゃねーよ」


 観客、盛り上がる。


『福地:お前それダメだろ、もしかしたら、その可能性が……』


「麻希ちゃん、じゃあ死体でいいのかな?」


「ごめんなさい、冗談です。真珠で」


「もう二人に関係ないよね」


「芸能人って宝石好きじゃないですか?」


「知らないけども、じゃあ、真珠ね。箱の中身は真珠か?」


 『ぶっぶー』という効果音が鳴り響く。観客から落胆の声が上がる。


「違います。それじゃ、最終ヒントですが、次質問答えなくてオッケーです。ちょっとしゃべりすぎで押してるっぽいんで。次のヒントは、箱のものに直接触ってみようってことで直接触れるけど、麻希ちゃん行ける?」


「あの、一応手袋とかって」


 三宮は少し笑いながら、「全然大丈夫。スタッフ―、手袋持ってきて」と言い、あわただしくスタッフが入ってこようとする。


「その前にここで一旦CMです。箱の中身、一体なんだろう」




「はい、CM入ります」


 スタッフの声でまたスタジオで何人もの人が走り回る。福地は、解答者席に座ったまま、スマホを操作している。


「ちょっと福地、あれどういうこと?」


 福地に小声で三宮が話しかけてくる。


「なんすか、ミヤさん」


「だから付き合ってんの?麻希ちゃんと」


「いやいやいやいや、何言ってんすか?」


「お前本気で付き合ってんだったら言えよ、本当に付き合ってんならこっちも気遣うんだから」


「まじっすか」


「実は……」


 福地が言いかけたところで、スタッフが三宮に話しかけてくる。


「ミヤさん、すみません。手袋近くに1個しかないらしくて」


「あっ、そう。それじゃ箱の中身触るコーナーなしにする?」


「いや、僕手袋なしで行けます」


「福地、いいね。サンキュ。じゃ、それで」


 そのスタッフは安心して、手袋を麻希に渡している。


「福地、ありがとう。あんま解答者席でスマホすんなよ」


 三宮はそう言って、司会者席に戻った。


「まもなくCM明けます、3、2、1」




「それじゃあ、これから麻希ちゃんにこちらの箱に手を入れてもらって、中身を触ってもらいます。さすがに触ったらわかるのか。麻希ちゃん、お願いします」


「はい」


 箱は両脇に手を入れる用に外からは中が見えないような加工がされた穴があいている。手袋をつけた麻希はおそるおそるそこから手を入れる。


「え!」


 麻希の表情は一瞬消え、それと同時に手を箱から引っ込める。


「麻希ちゃん、いかがですか?わかりましたか?」


「いや……」


 麻希、話そうとしない。


「ちょっと、麻希ちゃん、わかったの?」


「いや……、わかりませんでした」


 そう言いながら、麻希は解答者席に戻り、見えないようにスマホを操作する。


「なんだよ、国民的女優頑張れよ」


 三宮の厳しい言い方で、観客が盛り上がる。


『麻希:無理、髪の毛だって絶対、あれ。』


 福地、一瞬スマホを見て、驚いてスマホを落してしまい、スタジオに音が鳴り響く。


「おい、福地。生放送にゲームかよ」


 観客がドッと笑う。


「じゃあ、俺も箱挑戦していいっすか」


「いいけど、福地は手袋なしね」


「全然いいっすよ」


 ふと福地は解答者席の麻希の方を見ると、麻希は震えている。


「じゃあ、福地、お願いします!」


 福地、おそるおそる箱の中に手を入れる。

 福地は手を中で動かすが、なかなか中のものに触れない。より床に近いところまで手を下に入れると、ぬるっとしたものに触れる。福地、気持ち悪く感じながらも、そのまま触り続けると、人の皮膚のような感触がある。


「うわーー」


 福地は急いで手を引っ込める。


「福地、どう?」


「いやー、何かあれっすね。これ動物っすね、多分」


 福地、動揺を何とか隠しながら平然と話すが、スタジオが静まり返っている。


「ミヤさん、何とか言ってくださいよ」


「お前、手見ろよ」


 福地は自分の手に血のような赤黒い液体がついていることに気付く。


「!!!」


 観客からは悲鳴が聞こえる。



 福地はとうとう箱の中身がわかってしまった気がした。そして、それは想像できる限り最悪のものだった。ただ、この場でこの箱の中身を当ててしまうのはまずい。ここで箱の中身を明らかにすれば、間違いなく犯人だとバレてしまう。そもそもなぜ海に沈めたはずのあいつがなぜ今ここにいるのだろうか。


「血とかじゃないっすよ、これ」


 福地は恐る恐る手についた赤黒い液体をなめる。実際にはなめるふりをする。

観客から悲鳴がさらに上がる。


「ベリー系っすね」


 福地は液体に顔を近づけたとき生臭いにおいがあり、その時点で確信したが、この場を収めるためには、中身が苺だったとか、そういう言い訳をするしかなかった。


 観客からは安堵の声が漏れる。


「なんだよ、ややこしいな」


 三宮はそう言ったが、目は笑っていなかった。


 福地は解答者席に戻って、近くに置かれたタオルで手を拭きながら、


「じゃあ、俺答えていいっすか」


 福地はタオルを下に置こうとすると、床に落ちたスマホのメッセージが見える。


『麻希:私もう我慢できない。ごめん』


「すみません、私ギブアップします。ごめんなさい」


 麻希、突然そう言って泣き出す。


「ええ!どうしたんだよ、麻希ちゃん。ちょっと一旦CM……。あれもうCMないか」


「私、私……」


 福地は全ての終わりを確信し、下を向いた。が、すぐに立ち上がった。


「僕が全てやりました」




 福地は番組終了後すぐに過失運転致死と死体遺棄の罪で逮捕された。福地の供述いわく、ひき逃げだった。麻希との交際は一切認めることなく、そして早々に事務所を退所し芸能界も引退した。




 麻希は部屋で電話を掛けている。


「ああ、ミヤさん。この度は番組にご迷惑おかけしてすみませんでした」


「いやいや、いいって。でも、まさかああなるとはね。死体とマグロの勘違いって、いやおかしいわ、あいつ。ちなみに、知ってた?福地がひき逃げしたって?」


「もちろん知らないですよ」


「本当は付き合ってたんじゃないの?」


「そんなわけないじゃないですか」


「まあ付き合ってる相手とわざわざ共演したいって言ってこないか」


「そらそうですよ」


「にしても、演技力高いよね。箱の中身知ってたもんね。ていうか、自分でヒントも中身も考えたんだっけ?」


「あんま言うと良くないですよ、こんな電話で」


「プロデューサーに売り込んだんでしょ、私が100万取れば必ず視聴率も取れるし、ドラマの視聴率も上がるって」


「まあせっかくなら視聴率上げたいじゃないですか。あんまり数字取れないと国民的女優になれないんで」


「国民的女優も裏では努力してるってことで、安心したよ。結局あんなことになったから100万出なかったけど、視聴率好調そうで良かったよ」


「ええ、ありがとうございます」


「俺本当は知ってるよ、本当はひき逃げしたときに同乗してたのが麻希ちゃんだって。週刊誌もみ消したでしょ。今回のも実は全部仕組んでたりしてね」


「え?」


「あー、ごめんごめん。誰にも言わないから。ただ、これからも気が向いたら俺の番組出てよって話」


「……、わかりました」


「全然俺気にしてないから」


「はい」


「じゃあ、また」


 三宮との電話が終わった。



 危うく三宮を消さないといけないかと考えたが、三宮も見込んだ通りそこそこバカだった。完全に偽装工作がうまくいったと思ったが、まさかひき逃げの方が週刊誌にバレるとは思わなかった。正直ひき逃げ犯の車に同乗していたことがバレたって大してキャリアに傷はつかないと思った。

 その後、死体を海に沈める直前までは行ったが、別に手伝ったわけでもないから、罪にもならないだろう。それに最悪福地と付き合っていることがバレたところで、10代でもない女優の恋愛にそこまで世間は厳しくないだろう。福地の熱狂的ファンからは殺害予告をいくつか受けるだろうが、そんなくらいでは揺るがない。


 私がそういう人間だとわかっている人ならば、既に結論は明白だろう。実はひき逃げ事件ではない。福地は自分が犯人だとバレてしまうとか考えているようだが、そもそも犯人ですらない。




 私がストーカーを殺して、その罪の偽装のために、死体を福地の車にひかせ、その死体を海に捨てさせたというそれだけのことだ。




 福地も含め誰も私が殺したことまでは知らないだろう。

 もし、週刊誌にひき逃げが出ると、ここまでが全てバレる可能性があった。そこで、今回一芝居打って、全ての罪を福地にかぶらせることを計画した。


 まさか全てがうまくいくとは思わなかった。ひとえに演技力のおかげだろう。


 これまで演技力に難があるとか一部の評論家のじじいから言われてきたが、これを知れば老害たちも演技力を認めることになるだろう。老害たちにそれを知らせることができないのは残念だ。とにかくこれで全ての懸念事項は解決することができた。

 

 麻希はいつも通りゆっくりとソファに座ってリラックスしながら、次回作の台本を読み始めた。

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