箱を開けた日

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 小学校のころ、僕はクラスメートと一緒に校庭の隅っこに箱を埋めた。

 大人になったらみんなで開けようと約束した――タイムカプセルというやつだ。


 中に入れたものはもう覚えていない。

 埋めたときから十年以上たっているのだから仕方ないかな。

 でも、いよいよその箱を開ける日が来た。


「よっ! 久しぶり。……お前全然変わってねぇなぁ」

「そっちは大人っぽくなったわ。最後に会ったのが結構前だからそう感じるだけかもだけど」


 クラスメート達がどんどん集合場所に集まってくる。

 みんなの外見は人それぞれ。変わってるヤツもいれば変わってないヤツもいるけど、誰もが再会を喜び合っていた。


「お~い、全員揃ったか~?」

「「「揃ったよー」」」

「よし、じゃあ早速掘りにいくとしますかねぇ」


 向かうは箱の埋めてある学校近くの空き地。

 道中の会話は箱の中身についてでもちきりだった。


「私、何をいれたかなんて覚えてないよぉ」

「ウチは……お気に入りの人形だったかなぁ」


 そんなことを話しながら、箱のある場所につくと穴掘り部隊がスコップを持って掘りはじめた。

 みんながドキドキしながら見守っている。

 十分かそこらくらい掘っていると「みつけたぞ~!!」という声が聞こえた。


「さすがに十年以上たってると結構ボロボロになるもんだ」

「中身は大丈夫かな? 最近みたいにちゃんと管理してる場所に入れてるわけじゃないし」


 小学生のころに埋めた四角い箱は土まみれだったけど、中身は無事だった。

 この中に、大事な思い出が詰まっているのだ。


「開けるぞ?」


 代表者が皆に確認してから箱を開ける。

 中にはゴチャゴチャになった皆のモノでいっぱいだ。


「うわっ!? 私こんなのいれてたんだっけ」

 クマのぬいぐるみを拾い上げた和美さんがびっくりしている。


「ぉぉーー。これ昔の合体ロボじゃん。なつかしいなぁ」

 当時人気だったオモチャを昔と同じ目でみつめる慎吾がいた。


 僕も自分のを探していた。

 とても大事な、大事なものを。




「あれ?これは誰がいれたの?」


 和美さんが持ち上げたのは小さな箱だった。

 不意に思い出す。

 ソレが僕の入れたモノだと。


「名前が書いてあるだろ?」

「えっと、……………これ、ユウキ君のだ」


 少しの間をあけて和美さんが僕を呼んでくれた。

 ああ、本当に懐かしい。


「……そか、ユウキがいれたのか。うっし、こっそり開けてみるか!」


 慎吾が高らかに宣言する。

 僕は止める事もせずに、じっとその光景を見つめるだけだ。


 箱の中には手紙が入っていた。


『未来へ』


 今日、クラスメートのみんなと一緒にタイムカプセルを埋めています。

 この手紙を読んでるってことは箱を開ける日が来たんですね。

 僕が想像するに、仲の良いウチのクラスだから、皆で箱の中身について語り合って笑ったりしてるんでしょうが。こんなことを書くのもアレですが……僕はそこにいますか? ひょっとしたら慎吾辺りが読んでいるんじゃないでしょうか?


 もしそうなら、皆によろしくいってください。

 ぼくは大人になることすら出来なかったけど皆にはまだまだ先があるんだから。


 僕が読んでいるなら、皆で笑ってください。「何こんなものは書いてるんだおまえは」って。

 皆と一緒に箱を開けられることを願っています。

 

 ……みんなと一緒にいた日々は最高の思い出です。

『ユウキ』



「……ユウキ君、こんな手紙なんて書いてたんだ」


 グッと何かをこらえるように和美さんがつぶやいた。

 慎吾がその言葉を引きつぐ。


「ユウキは皆で箱を開けたときに笑いたいから、ってこの手紙を書いてるって言ってたんだ。………ばか、わらえねぇよ……どうせならもっと笑えるのを書けってんだ」


 慎吾の身体が震えている。

 励ますこともできない僕にはそれを見てることしか出来ない。

 箱を埋める前から、ぼくは難しい病気だった。ただ、親と医者が話しているのを偶然聞いたときに、あまり長くないことは知っていた。


 この箱には、ぼくが希望を持てるように手紙を入れたんだ。

 大人になるまで生きれたのなら、箱を開けた瞬間にみんなで笑いあうことができるって……。


 ――その願いは叶わなかったけれど。


 誰も笑ってなんかいない。むしろ逆に泣きそうになってる人だっている。 

 みんなで箱を開けるこの瞬間まで、僕が残れた小さな奇跡も、終わりだ。


「おい、みんな!!」

 慎吾がみんなに声をかける。


「もう、暗い顔なんてするな! ユウキがこの場にいたら、皆を暗い顔にさせたって悲しくなっちまうからな」


 僕がここにいることを慎吾は知らないのに、なんでこんな風にいえるんだろうか。


「ユウキの希望、俺達で叶えてやろうぜ」


 それを聞いたみんなが、うつむいていた顔を上げる。

 みんな同じ顔をしていた。ぼくにはそれで十分だった。


「ありがとう……ありがとうね、みんな!」


 この声が届くわけはないけれど、この存在が消えるその瞬間まで、

 大きく手を振りながら精一杯の感謝し続けたのだった。

  

 

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