リフォーム分譲ダンジョン【不殺】~幸せのおすそ分け箱~

喰寝丸太

リフォーム分譲ダンジョン【不殺】~幸せのおすそ分け箱~

「この黒い箱は何ですか?」


 俺の専属秘書兼、雇われ社長の香川かがわさんが俺が作った黒い箱を見てそう言った。

 香川かがわさんは元女優で美人で知的だ。

 その香川かがわさんにも分からないとは。


「ダンジョンをリフォームして作ったんだ。ダークゾーンっていう奴」


 俺のスキルはリフォーム。

 建物の内部と外観を好きに変えれる。

 ダンジョンも建物内に分類に入るらしい。


「そう、どこかで見たことがあるような気がしたんです」

香川かがわなら色々と用途を思いつくんじゃないの」

「暗室が必要な仕事場はありますが、ダンジョンに来てまでやろうとは思いませんね」

「とりあえずは寝室用かな。ほら、ダンジョンて昼夜の区別がないだろ」

「ええ。でもダークゾーンだと灯りが役に立たないのですよね。ベッドの大きさにすれば手探りでも大丈夫ですけど」

「オプションサービスでどうかな」

「大した金額にはならないでしょうけど。分譲販売が進みますね。これで明るくて寝れないという人の対策にはなります」


 うーん、今回のは金にならないか。

 苦労したんだけどな。


 ゲームにあるストレージやアイテムボックスの機能が再現できれば、凄い画期的なんだけど。

 時間停止するダンジョンのトラップはない。

 あっても中に入った瞬間に動かなくなるって事だよな。

 手なんか入れたら、固定されちまうんじゃないかな。


「あー、ダンジョンの機能では時間停止も腐敗停止も出来ない。くうー、なんかもどかしい」

「それってできますよね」

「どうやって」

「宝箱の中のポーションとか劣化してたという話は聞きません」

「えっと、あれって時間停止とか腐敗停止とかの機能が付いているの。ただの木の箱に見えるけど」

「実験してみませんと」


 そうだね。

 実験してみないと。


 ダンジョンの床をリフォームして宝箱を生み出す設定にする。

 おお、宝箱ができた。

 さっそく開けるとポーションが入っていた。


 あれっ、時間停止よりもポーション荒稼ぎの方が儲かるのでは。

 もう一度。

 今度は、何も入っていなかった。

 そこはかとなくダンジョンの悪意を感じる。

 というかダンジョンを酷使するなよって抗議の意思か。


 まあいい。

 時間停止の実験だな。

 氷をひとつ、宝箱にいれる。

 何分か後に溶けてなければ時間停止してる。


 結果は溶けていなかった。

 ダンジョンの宝箱って時間停止しているんだ。

 どういう仕組みだろう。

 木箱に密閉性はない。

 時間停止の空間が漏れたりしそうだ。


「仕組みがどうなっているか分からないと客に勧められない」

「もっともです」


「で木箱にライトを入れる」

「閉じた後に隙間から光が漏れるかですね」

「うん。あれっ、閉じたら光が消えた。開けたら点いているライトがある。これはどう考えたら」

「時間停止なら光も進まなくなるのでは」

「なんか嘘くさいんだよな。隙間の穴を大きくしてと。これなら中が見えるから、今度はどうだ。あれっ、ライト本体が消えたぞ」

「どうやら、保管している空間は別にあるようです」

「うんうん、宝箱は単なる出入口に過ぎないのか」


 ダンジョンて、時空魔法が得意だよな。

 ポータルとかは転移だし、転移罠もある。

 モンスターは召喚されるし。


 宝箱の中身も開けるたびに召喚されるのだな。

 ハムスターを入れてどうなるか実験したいが、死を思うと吐き気がする。

 そんな残虐なことはできない。

 植物なら良いか。

 机の上に飾っておいた小さいサボテンを入れる。

 宝箱の蓋を締めても、サボテンはそのままだ。

 生き物は駄目らしい。


 冷凍睡眠みたいなことができたら最高だったのにな。

 そうすれば今は救えない病人を未来では治療できるかも知れない。

 なかなか上手くはいかないな。


「宝箱の何か有効な使い方ってある?」

「そうですね。薬品の保存とかは良いですけど、冷蔵庫で事足りますから。文化財の保存とかですね。ただどこの空間に行ったかわからないのでは、安全性に疑問が生じます。迷子になって取り出せなくなる場合も考えられますから」

「ダンジョン住宅の冷蔵庫代わりしかならないか。金にはならないね」

「封を切ったシャンパンの保存とかできて一部の人には受けそうですが」

「食品のタイムカプセルってどうかな。昔の食べ物とか、未来の人とか食べたいんじゃないかな。50年ぐらいでも懐かしの味とかありそうだ」

「あまりお金が入るような商品とはなりませんね」

「そうだね。宝箱を置いておくスペースが勿体ない」


 俺はダンジョンのある場所に宝箱を埋めた。

 今流行っている菓子と、手紙を入れて。


 こんな文面だ。

 50年後の俺はもう孫が産まれているだろうか。

 俺の奥さんになる人は誰かな。

 50年後の俺が幸せだと良いと思う。

 菓子は孫にでも食わせてやれ。


 未来の俺はこの菓子を食って手紙を読んで何を思うだろうか。


「埋めるなら別ですよ。深く掘れば何層にも重ねられますし」

「どうせ、入れるのは学生とかだろう。1箱1万円ぐらいで、やってあげよう」

「それがいいですね」


 試験的にやった宝箱保存は、中身が入れ替わる事故が起きた。

 くっ、ダンジョンの悪意を感じる。

 あっ、俺の手紙を知らない誰かに読まれる。

 恥ずかしくなるようなことは書いてないけど、なんか他人に読まれると嫌だな。

 俺は宝箱を掘り出して手紙を取り出した。


 このお菓子は俺からの未来の君達への贈り物だ。

 みんなで食べて幸せになって欲しい。

 色々とあったけど俺は今幸せだ。

 幸せのおすそ分け。

 幸せを分けてあげるような人になれが両親の言葉だったから。

 と手紙の文面を変えた。


 同じ宝箱を100個埋めた。


「幸せのおすそ分け。いい言葉です。こんな、オーナーの下で働けて満足してます」


 うん、こういう行為はこれからもしていこう。

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