エンドロール

「あー、間に合わなかったか」

 彩子はM病院の近くまで来て小さくそうひとりごちた。

 病院の周りは今警察に寄って規制線が張り巡らされ、近づく事が出来ない。


 昨日昼にあった震度4の地震以降、病院内にいたほぼ全ての人間の消息が掴めなくなっている事がわかったのだ。

 昨日午後から夜遅くまでに多くの通報と相談が相次いだため、深夜に警察が正面玄関のガラスを割り中に突入した。

 しかし病院内はまるで院内を竜巻が通過したかのように荒れ果てており、蛻の空であった。1階ロビーに倒れていた入院患者の少女だけが救出され、警察病院に搬送された。少女はまだ口が聞ける状況ではないという。


 病院の周りには野次馬が集まってきている。

 その野次馬の中に鮎太郎のバンドのメンバーを見つけた。何故か彼らは彩子に対して良い印象を持っていないのを知っている。それを思うと話し掛けるのも話し掛けられるのも億劫に感じたため見つかる前に退却する事にした。

 今はもう彩子の力では何も出来ない。一旦大阪に帰ってから情報を集めて対策を練るしかないだろう。


 でも運が良ければ、それ程長期化せずに済むはずだ。


 多分。


 心臓が痛い。これはSOSだ。人の本能が危機に反応している。


 さて、どうしたものか。


 ここからはとても嫌な匂いがする。


                                         完


参考資料

「小規模病院の設計―そのチェックポイントと実例 新訂版」知久董 彰国社

「シンガーソングライター入門」エバラ健太 ドレミ楽譜出版社

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

溢れる川に魚はいない タチバナエレキ @t2bn_3

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ