生徒会長とナイショの話

 体よく宗治を生徒会室から追い出した。生徒会室で、早苗と卓のふたりきりになる。

「過去が視えるの?」

「はい」

「すごお」

「そういう能力を持って生まれてきているので」

 早苗の質問に答えてから、卓は生徒会室の扉に近付いて、部屋の外を確認した。宗治の姿はもう見えない。

「過去って、たとえば、」

 一例を挙げる途中で、何を妄想したのか、早苗は顔を真っ赤にして「きゃっ! えっち!」と自滅した。

「理論上、そういうものも視えなくはないですが」

「ぷらいばしー!」

「わたしが視たものは違いますよ」

「にゃんと?」

「紅色の目の、銀髪オールバックのが視えました。どなたでしょう?」

 べにいろ、ぎんぱつ、と早苗が指折り数える。

「悟朗さんのこと?」

「生徒会長よりお若く見えましたが」

「そうよ? 悟朗さんは、中学三年生。来年度、神佑に入学する予定! 悟朗さんは頭いいから、よっぽどのことがないかぎり、合格するわ!」

 英語の宿題を粛々と進めながら、卓は宗治の話を聞いていた。覚えている。宗治は、早苗からの返答はまで保留であると話していた。

「悟朗さんとのご関係は?」

「ふふふん」

「はぐらかさないでくださいよ。ずいぶんと仲睦まじそうでしたけど」

「なかむつ……? 卓くん、むっつりすけべさん?」

「視てませんよそんなシーンは」

「やだあ……もう……」

「視てませんって」

「あたしぃ、将来的にはぁ、悟朗さんとぉ、子どもは三人ぐらいほしいかなってぇ」

 早苗がくねくねしながらのろけている。隠したいのだか明かしたいのだか。

「はあ」

 ついに呆れが出た。先輩が相手とあってこらえていたものを。早苗はこのため息を聞いて、こほん、と咳払いをする。

「つまり、そういうことよ。あたしを好きになってくれるのは嬉しい、けれども、早苗には悟朗さんがいるのよさ。でも、これから生徒会の仲間として一年間やっていくのに、初っぱなにばっさりと断ったら、その、きまずいでしょ?」

「そうですねえ」

「あの場には先輩たちもいたから、変な空気にしたくなかったのよ。ってなわけで、早苗は考えました。結論を『入学式』まで先延ばしにして、悟朗さんが入学してから、種明かしをしようって。まっ、宗治くんが有言実行して悟朗さんよりもになっていたら、惚れちゃうかもね?」

「いいんじゃないでしょうか。わたしも、宗治くんには成長してほしいですし」

「だーかーらっ、卓くん。悟朗さんのことは、ナイショにしておいてもらえないかな?」

 早苗は形のいい唇に人差し指を添える。


「わかりました。宗治くんのために、黙っておきましょう」

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こちら神佑高校生徒会 秋乃晃 @EM_Akino

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