俺と来ませんか?
「ここまで来たら、大丈夫ですかね」
「はい、私のわがままに付き合ってくれて、ありがとうございます。もう大丈夫ですから、下ろしてもらって大丈夫ですよ」
口ではそう言ってくるミレイだけど、俺には全然ミレイが大丈夫には感じられなかった。
前世でもミレイのことは知ってたし、今世では三年間ストー……じゃなくて、見守っていた存在だ。
だからこそ、分かる。
今のミレイは全然大丈夫じゃないって。
「俺は、何があったのかは分かりませんが、さっきの男が嘘をついているってことだけは分かります。本当に大丈夫ですか?」
そう思って、何があったのかは知らない、という体は保ちつつ、俺はミレイを背中に背負ったまま、心配するようにそう聞いた。
「……大丈夫、ですよ。小さい村ですし、存在は知ってましたが、あの人とは今日少し話した程度の仲なんです。……少し、優しい人だな、って思ってただけに、ショックは受けましたけど、それくらいなんです。だから、大丈夫ですよ」
……確かに、思い返してみても、この三年間でミレイがあの二人のどっちかと喋っている様子は無かったな。
「住む宛……というか、これからの宛はあるんですか?」
だったら、それ以外のことに不安を感じているんだと思った俺は、少し考えた結果、そう聞いた。
「…………」
まぁ、そう、だよな。
レレシスの中でだってミレイは物語がスタートするまで村から出たことがないって設定だったもんな。
「無いん、ですか?」
「……はい」
「……俺と来ませんか?」
俺がそう言った瞬間、背中に背負っているミレイの心臓が早くなった気がした。
……普通、逆だと思うんだけど。
「い、いいんですか? わ、私、ちょっとした生活魔法が使えるくらいで、他には何も出来ませんよ? ……あ、か、家事もちょっとできますけど」
……なんか、自分なんて……みたいな言い方をしてるけど、かなり魅力的だろ。生活魔法とはいえ、魔法が使える点とか、家事が出来る点とか、日本人だった俺からしたら最高すぎるんだけど。
いや、別にこれは告白をしているってわけじゃないから、仮にミレイが何も出来なかったとしても、関係ないんだけどさ。
「大丈夫ですよ。……その、偉そうに俺と来ませんか? とか言いましたけど、実を言うと俺も行く宛てがないので」
まさかあの空間に戻るわけにも行かないし、そもそも戻りたくもない。
そして、俺は金もないし、なんなら邪神だ。……うん。ミレイが俺に着いてくるメリットが無いどころか、デメリットしか無いぞ。
強いてメリットを上げるのなら、邪神として肉体が強いから、魔物やミレイの見た目を見て言い寄ってくる奴らから守ることができることくらいだぞ。
俺って見た目が怖いし、隣に立ってるだけでしょうもない奴らは言い寄ってなんて来ないだろうしさ、その辺が唯一のメリットだろ。
「そう、なんですか?」
「……お恥ずかしながら、そうなんですよ」
「だ、だったら、こんな私ですが、是非あなたと一緒に居させてください!」
そんなミレイの言葉に俺は思わず目を見開いた。
まだミレイは背中に背負っているから、俺のそんな間抜けな顔は見られていない。
「えっと、自分で言っておいてなんですが、いいん、ですか? 会ったばっかり、ですし」
「た、確かに、出会ったばかりではありますけど、私の気持ちは本物、ですから。……あ、あなたもそう、なんですよね?」
……気持ち? 本物?
「え? あ、あぁ、もちろん、そうですよ」
よく分からないけど、何か、ここで素直に頷かなかったら取り返しのつかないことになる。
そう思った俺は、そう言いながら直ぐに頷いた。
「良かったです。……今更嘘だった、なんて言われてたら、私、怒っちゃってましたよ?」
可愛らしくミレイはそう言ってきた。
そう、可愛らしい……はずなのに、なんでか、俺の体は今にも震えてきそうだった。
……何を俺はビビってるんだ? 確かに、中身は一般人だけど、体は邪神なんだぞ? 一体何にビビるっていうんだ。落ち着けよ、俺。
「は、ははは……ま、まぁ、嘘じゃなかったんですし、そろそろ、お互い自己紹介をしませんか?」
話を逸らすために、俺はそう言った。
実際、ミレイの名前を知ってるのに、心の中でしか言えないのは不便だしな。
目が覚めたら鬱ゲーヒロインを呪う邪神になっていたので物語をスタートさせないことにしました シャルねる @neru3656
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。目が覚めたら鬱ゲーヒロインを呪う邪神になっていたので物語をスタートさせないことにしましたの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます