第76話・今度はきみの番・(最終話)


「どうした?」


「なんでもないわ」




 カナレッドは7歳の息子レオナードを抱っこしていた。彼にもようやく順番が回って来たらしい。あとの二人は大人しくしていると思ったら、床の上でお絵かきをしていた。




「あ──っ、それはわたくしの口紅──ぃ!」




 床の上が真っ赤に染まっている。5歳の娘と3歳の息子は母の悲鳴など気にした様子も無く、鼻歌を歌いながら楽しそうに描いていた。




「また新しいのをきみに贈るよ」




 ショックを受けているアンジェリーヌに、7歳の子を床の上に下ろすと、カナレッドが隣の椅子に座ってきた。




「おいで。今度はきみの番だよ」


「レッド」




 カナレッドの膝の上に、横向きに乗せられる。




「重くないの?」


「全然。あるとしたら幸せの重みかな」




 抱きしめられて、アンジェリーヌの頬に笑みが浮かぶ。結婚して子供を持って色々と騒がしい日々だけど、一つだけ変わらないものがある。カナレッドはアンジェリーヌを甘やかしてくれる。




「きみは僕のお姫さまだからね」


「レッドったら」




 初めて彼に出会った日。アンジェリーヌは彼に惹かれた。かれもまた、アンジェリーヌに好意を抱き、これ以上、惹かれないようにと気に掛けていたらしい。カナレッドは身分差をその時、恨んだとも言っていた。




 それだけに自分の妻となったアンジェリーヌが愛おしく、宝物のように思っているのだと囁いてくれる。その彼と一緒になれて良かったと思っている。もしも、あのアヴェリーノ殿下とよりを戻していたならこのような幸せは手に入らなかったに違いない。今殿下は婿入りの立場ながら、社交界で浮名を流し、一部の高位貴族らから呆れられている。




「ねぇ。レッド」


「なんだい? 我が愛しの奥さま」


「わたくし、幸せよ。ありがとう」




 そういって体を捻り、彼の方へ顔を寄せると頬にキスをする。




「さっきのお返し」


「じゃあ、そのお返しだ」




 カナレッドからは唇にキスが返ってきた。




「もう、レッドったら」




 恥ずかしさに彼の胸に顔を寄せる。まさかそれを三人の子供達に目撃されていたとは知らなかった。三人の子供達はお互いに「シー」と、唇に人差し指を当てて、お絵かきに集中した。


 その後、ジネベラの元へ顔を出したときに、バーノ達の前で子供達に「おとうさまと、おかあさまチュウしてた」と、暴露され、赤面する羽目になろうとは思わなかった。




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💊世にも稀なヒロイン病になってしまいました~処方箋は真実の愛って嘘でしょう?!~ 朝比奈 呈🐣 @Sunlight715

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