【KAC20243】翠色(すいしょく)……新選組沖田総司の『箱』

凛花

【KAC20243 翠色 ……新選組沖田総司の箱⠀】



小さな箱……


穴が開いて壊れてしまった箱……


それは……


いったい


いつまで……





「……わぁ!沖田はんや!」


新選組一番隊長の沖田総司をたくさんの子供たちが取り囲む。


「鬼ごっこしようや!」 「沖田はん、どないしてたん?」 

「これ見て!そこで拾った石や、見て!見て! 」

「為ちゃん、ずるいで!うちの宝物見てもらうんが先や!」


子供たちが口々に訴えるのにいちいち頷いては

「……ああ、為坊ためぼう!すごいなぁ……」

沖田は石ころを受け取り目を輝かす


新選組が屯所を西本願寺へ移してから沖田がこうして壬生へ顔を出すのは初めてだった。

目ざとい子供たちが気づかぬはずはなく、すぐに囲まれる。


沖田に自慢の宝物……川で拾ったきれいな石、竹とんぼ、独楽、植物の種、セミの抜け殻


いつも持ち歩いている宝物を見せようと子供たちが誇らしげに、おそろいの紙箱を沖田のほうへ差し出す


ああ……

この箱は……


沖田はクスっと微笑む。

八木家の奥方が趣味で作っている紙箱、きれいな紙を使っているので近所の子供たちから娘たちにまで人気があるのだ。


沖田は宝物を褒めながら、壬生にいたころの思い出に気持ちを和ませる。


「ああっ! 」

突然、子供たちの中でも一番幼いお美代が大きな声を出す


宝物を入れすぎて紙箱が破れ、ばらばらと小さな簪や鈴と言ったものが零れ落ちた。

周りの子供たちが慌てて拾ってやるがお美代は大泣きしてしまう


……破れた箱、壊れた箱……使い物にならない……箱


「美代坊……泣かなくてもいい。」


沖田は懐から懐紙を取りだす


器用な手つきで折りたたむ


壬生に来たばかりのまだ暇を持て余していた頃……八木の奥さんがが作るのを見ていて折り方を覚えてしまった


「さあ、こっちへ入れかえよう 」

折りあがった紙箱を見せて、お美代の頭を撫でてやる


ぱっと明るくなるお美代の瞳


「…… 」

沖田はまぶしそうに目を伏せた




……こんなふうに


破れた箱を修繕する、そんなふうに……



自分の中の箱……はこも……


治せたり、取り替えっこ……できたりできないですか


…………



軽く咳き込んで、慌てて子供たちから離れる


「もう、行かなきゃ…… 」


名残惜しそうな子供たちに「またね…… 」と軽く手を振る



壬生寺の葉っぱだけになった桜の木を見上げる。


花が散ってしまっても

なお、その有り余る生命力を見せつける葉桜の翠色すいしょく

それは暴力とさえ感じる。




私の……はこ


穴が開いて……




それはどんなに塞ごうとしても……だめなんです


どんどん大きくなって



塞ぐことのできない穴から水が漏れるように……


私のはこからは………血が溢れ出す



穴が開いたはこは役に立たない



そして命が入った……この身体はこも……


「……私はこのまま役立たずになっちゃうんですかねぇ……」

桜の木に向かってひとり呟く




刀に手を触れてみた


その重さが自分はまだ生きているということを思い出させてくれる




願わくば……私の身体……


私のはこ


後、もう少し


近藤先生と土方さんの役に立てるといいのですが……











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