KAC20243 黒い箱と彼女の秘密

久遠 れんり

その日は、最高の日から、最悪の日へと変わった。

「おまたせ。まったぁー」

「いいや。さっき来たところ」

 言いたかった定番台詞。


 高校二年にして、初彼女…… になるかもしれない。

 この子は、裏黒 香うらくろ かおりちゃん。

 クラスで一番じゃないが、かわいい子で有名。


 なぜか、彼女が落としたハンカチを拾ってあげたら、遊園地に来ることになった。

 一緒に行く予定だった子が用事が出来て、前売りだったのでどうしようかと思っていたらしい。


 僕は狭間 解司はざま かいじ

 人気者の彼女と違い、僕は真面目君と呼ばれている。

 身長も一七〇センチくらい。


 筋力無し。メガネをかけて典型的な感じ。


 そんな僕だから、一度は断ったけれど、「君なら安全そうだから」そんな理由で納得をしてしまった。

 むろんチケット代は払ったよ。

 考えた末に、自分の分だけ。

 お金はあったけれど、払うのはおかしいと判断をした。

 食事代くらいは払おうか。


 そして、よく聞くパターンにはまった。

 なぜか、九時から布団に入った。

 僕の中で、遅刻などあり得ないから。

 起きられなかったらどうしよう。そう思った末に早く寝た。


 だーが、しかし。

 普段寝るのは十一時くらい。


 寝られるわけもない。

 明日の服装は、出してある。

 そんなに張り切ったところを見せないように、デニムかチノで悩みチノパンを選択。

 シャツとジャケット。

 ネットで検索して決めた。


 普段しない、眉までそろえた。

 鼻毛も見た。


 すでに幾度も見返して後は寝て、遅刻をせずに起きるだけ。


 なのにだ。寝られない。


「そうか体内時計。いつもとパターンを崩すから駄目なんだ」

 勉強をしたり、小説を読んだり。


 少しうとっときた。

「今だ」

 布団へ入る。


 だが、悪夢にうなされる。


「えー遅刻?」

「えっごめん。今何時? どうしてこんな時間」

 ふと意識が覚醒する。


 二時じゃないか。

 また眠る。

「おう俺の女とナニをしてんだ?」

「誰? 君」

 そうして殴られそうになり、また意識が冷める。


「だめだ」

 僕は顔を洗いにいき、早すぎる時間だが、寝ずに起きておくことにする。


 はっと目が覚める。

 七時? なんで。今日は確か土曜日。休日なのに。

 なんで机?

 鳴っている目覚まし時計を止める。そこで思い出す。

「ああ、そうだ」

 だがまあ、待ち合わせは九時。まだ充分間に合う。


 顔を洗いにいき、適当に食事を取る。

 両親は今日、仕事のようだ。


 適当に時間を合わせ、出発をする。

 なぜか気になって、五回も歯磨きをしてしまった。


「おかしい。まだ八時半じゃないか?」

 どこかで間違えたのか、三十分も前に着いてしまった。


 こう言うときは、WEB小説が便利。

 スマホで、最近始まったKAC20243を読みあさる。

 短編ばかりだから便利だ。


 色んなジャンルを手軽に読めるのも良い。

 時間は過ぎ、すでに九時半だが気にしない。


 彼女の姿が見え、立ち上がる。

 十時前だがまあ良い。


 定番の挨拶を済ませ、中へ入る。

 ざっと、お土産屋さん経由から、アドバンチャー系の方へ走る。

 彼女は詳しいらしく、ルートは任せている。

 だが、混雑していても並ぶ。


 予定を飛ばすことをしない。

 うーん。なんだろ。そして並んでいるときもスマホに集中。

 まあ友人のかわり。デートだと思ったのは僕の勝手か。


 そして、不自然に誰かを探す仕草。

 最初は何かを探しているのかと思った。

 キャラの着ぐるみが、たまに歩いているから。

 でも違う。


 昨日の夢が蘇る。

『おう、俺の女とナニをしてんだ?』

 偶然じゃなければ、美人局。

 最近もニュースでやっていた。


 そして、やっとブランコのような乗り物に乗り、昼食。

 一番混んで居る時間。

「人がこれだけ並んでいるなら、アトラクションの方が減ってないかな?」

「えー。朝食べてないし」

「そうなんだ」

 この時点で、僕の評価はかなり下がっていた。

 偉そうに人に点を付けられる立場ではないが、彼女とは合わない。

 そう思う。


 なんとなく気を使う気も失せ、無難なカレーを食べながら周りを見渡す。

 もう食堂の列は、随分短くなっている。


 ああそうか。効率の悪さが気持ちが悪い。


 そして、昼食を食べてすぐ、ジェットコースターへ。

 うん。


 なぜだか、苦痛になってきた。


 結構並び、乗り込む。

 やがてゆっくりと動き出し、チェーンリフトから外れる。

 揺るやかに下り、右や左に曲がり直線に行くとき、レールの上に黒い箱状の何かがあるのに気が付く。


 ぶつかる。

 僕は身構えるが、前席の人たちは普通。

 えっ。そう思ったら、容赦なく突っ込んでいく。


 視界が変わり、彼女がいる部屋。

 横にいるのは、うちのクラスの納金浅雄のうきん あさお

「遊園地? うぜえ。誰かと行って来いや」

「じゃあ、男の子誘って、浮気してやる」

「はっ。俺と別れるってか。いいぜえ」

「ちょ。本気にしないでよ。あん」

 納金の手が、彼女の体をまさぐる。


「いや、おもしれえ。連れと賭けをしよう。デートして落とせるかどうか。オッズは相手次第だな。馬鹿な奴なら、相手が女って言うだけで引っかかるからな。良さそうな奴。そうだ、真面目君がいいや。誘え」

「えー。どうやって」

「そんくれえ考えろ。おっ。他の奴とデートすると思ったら、なんか気分が乗った」

 そう言って絡み始めた。


「ふーん。そうだったのか。じゃあ、誰かが見張っているわけだ」

 そう意識してみると、見たことある奴らがたむろしているな。


 じゃあ、振って帰ろう。


 そう決めた僕は、次はあっちと手を引く彼女に、きっぱりと説明する。

「うーん。この辺で良い? 君とは合わない。無駄な時間を使うのがこんなに苦痛だと思わなかった。それじゃあ」

「待って。それじゃあ、まけ。あっいえ。まだ時間もあるし。ねえっ」

「お疲れです。お先に失礼します」

 あっバイトの癖が。まあいいや。

 ぴらぴらと手を振って帰る。


 しかし、言いかけた言葉。負け?

 彼女はあれで、僕を口説いているつもりだった?

「だめだめだな……」

 きっと僕は、少しだけ賢くなった。

 今日のは、教訓として覚えておこう。


 それにしても、あの箱は一体?

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KAC20243 黒い箱と彼女の秘密 久遠 れんり @recmiya

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