とりのめ

そもそもこれは開くのかどうか


 フリーのジャーナリスト、オリヴェール・マケラはある依頼を前に、腕を組みただ座り続ける。その彼の前には木製らしき小物入れ置かれていた。伝統工芸かと思しき幾何学模様の美しいそれは、置物としての価値は十分にある。しかし問題はその中身だった。

 依頼は些か複雑である。まず、昔の職場の同僚、トーマスの知り合いという人間がコンタクトを取ってきた。その男を仮にAとしよう。

 Aの友人の元に知人から小包が届いたらしい。この友人B、知人をCとする。この辺りから正直、既に面倒極まりない。

 BはAにこの事を相談した。Cとは大して親しくないのに、その彼の死後、差出人は本人の名で送られてきたからである。『自分に何かあったらこれを』という一言と共に。

 なんだか気味が悪くて一人で持っていたくないというBに同意したAは、そういう事に興味を持ちそうな人物、トーマス・スミスに話を持ちかけ、そのトーマスからオリヴェールへと調査を託される。

 それが目の前にある開かずの小物入れだった。

 掌に収まる小ささで、中に何か入っているのか、振ると軽い音がする。しかしこの小物入れ、開け方が全くわからなかった。これという突起もなく、ただ木製の立方体という形状である。割って開けてしまえ、というにはあまりに惜しい幾何学模様が全面に施されており、そんな気さえ起こせなくなってしまう魅力を放っていた。

 巡ってきた経緯が経緯であり、壊そうものなら呪われ兼ねない。

「…………」

 全部の面をしらみつぶしに観察してみたが、開きそうな切れ目さえ見つけられなかった。

 インターネットで検索をかけたところ、それは日本にある伝統工芸品だとわかった。カラクリ仕様でそれぞれの面を押したり引いたりズラしたりすることで順番に外れていき、最後に蓋が取り外せるものらしい。ただ厄介なのがこの工程には決められた順番があり、そのとおりに動かさないとゴールには辿り着けないのだ。

 そして手数。種類があまりに多すぎる。大きいから手数が多い、ということでもないらしい。

 自分一人では到底答えに辿り着けないと痛感したオリヴェールは、日本に住む友に助けを求めることにした。


 もしかしたら知恵を分けてくれるかもしれない。分けてくれますように。


 とりあえず電話をかける前に自分の携帯電話を拝んでみた。

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