(不)器用な男

旧瀬昧

(不)器用な男

つくづく、この男は本当に不器用だなぁ。


改めて関心してしまうほど、この男はとにかく不器用であった。


「爪ってさぁ、夜切ったらダメなんじゃなかったけ?」

「そう言えば聞いたことがありますね。」

「親の死に目に合えないって言うよね」

「そんな嘘みたいな通説を流布した奴は、今頃ほくそ笑んでるだろうなぁ。」

ははは、と軽口を叩きながら震える右手で爪を切る様は見ていてかなりスリリングだ。


彼は立派な成人男性である。

幼児では無いのだから爪切りくらいできて当然なのは私も重々承知済みなのだが、身に染み付いた世話焼きの血がざわざわとして今すぐその爪切りを奪い取り代わりにやってしまおうかなんて考えてしまう。


独特な持ち方から繰り出される爪切り捌きといったら、危なかっしくてとても見ていられない。


鋭利な刃で爪は愚か肉さえも断ってしまいそうな勢いでぱちんと音がする度に、私はぴくりと眉を動かしていた。

本人のプライドと負傷する可能性とを天秤にかけながらどうしたものかとうだうだとしていると、いつの間にか終わっていたようでほっと息を吐いた。


「綺麗に出来てんじゃん、えれぇよ」

「えれぇですか。」

「うん、えれぇ」


指先に弧を描くその白い半月は、必要以上に細い。

日常生活において特に不便は無いのかと問えば、ままあると返ってきた。


「整えるぐらいでいいんじゃないの?」

「死ぬ程不器用なのもありますけど、今は、まぁ。あなたを傷つける訳にはいかないので。」

「はぁ」


さらりと、あまりにも事も無げに呟くので一瞬意味を理解しかねたが、ふと思考し返答に合点がいった私は変なところで器用な男だと微笑んだ。

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(不)器用な男 旧瀬昧 @Furu_0_mai

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