Boxed Lunch

ナナシリア

Boxed Lunch

 朝起きて、朝食を取りに行く。


「今日のお弁当、いる?」


 母が尋ねる。


「いらない」


 キッチンの片隅を見やると、既に弁当が用意されている。


「必要になったらいつでも言ってね」


 なにか理由があるわけでもないのに、素直に母親に頼るのには抵抗がある。


 今日も行く途中のコンビニで昼食を買うことになり、悪いのは自分なのに溜息を吐く。


 家を出てしばらく歩けば、行きつけのコンビニに着く。


 中に入ると、いつもの店員と目が合い、その店員に促されるように思えていつも通りにおにぎりとメロンパンを購入する。




「今日もそれ? 飽きないの?」


 クラスメイトの近藤さんが、無愛想な俺に優しく話しかける。


「おにぎりの味は毎日変わってるよ」

「そういう問題ではなくない? お母さんが弁当作ってくれるなら頼ればいいのに」

「そうなんだけど、なんかね」

「ああ、言おうとしてることはわかるかも」


 近藤さんは俺の滅茶苦茶な言葉にも理解を示す。


「それは誰も悪くないってわたしは思うけど、わたしは箱山くんがお母さんと仲良くできると嬉しいかも」


 他人事のはずなのに、近藤さんは気にかけてくれる。


「どうしてそんな」


 俺はそれが嬉しくもあったが、同時に他人のことを素直に信用できはいくらい捻くれてもいた。


「わたしは、みんな幸せでいてほしいから」


 それはあまりにも単純で、あまりにも難しい志だった。


 その言葉を聞いて俺が思ったことは、自分にできることくらいはやりたいということ。


「箱山くんは、お母さんのお弁当が嫌いってわけじゃないんだよね?」

「うん」




「今日のお弁当、いる?」


 母の質問はいつも通りだった。


 俺はこれから言うべき言葉を想像すると、とてもじゃないけどいつも通りにはいられない。


『一回だけでもいいから、お母さんのお弁当食べてみなよ』


 昨日の近藤さんの声が脳内に響いて、それが俺に少しだけの勇気をくれる。


「いる」


 母は、皿を洗う手を止めた。


 そして、ただ一言。


「ありがとう」


 俺はむず痒いような気分になり、引ったくるように弁当と朝食を回収して自室に戻る。


 朝食を机に置いて着席してみると、膝に置いた弁当がほんのり温かかった。

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Boxed Lunch ナナシリア @nanasi20090127

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