箱の中身はなんじゃろな~?

脳幹 まこと

こんな番組があったら見る?


「さあっ! やってまいりました、たった10個、中身を当てるだけで賞金1000万! 新感覚クイズバラエティ・箱の中身はなんじゃろな! 今回は私、泡田あぶくだが司会を務めさせていただきます!」


 観客席にいるスーツ姿の人々から盛大な拍手が降り注ぐ。

 収録スタジオには司会者と1人の青年、そしてひとつの黒い箱。


「今回の挑戦者は、優しそうなお顔をしたイケメンお兄さんです!」


 その言葉にはにかみ笑いを浮かべる青年。


「既にうかがっておりますが、挑戦前にご本人の口から賞金の用途と意気込みのほどをお願いします」


「はい、大切な人と結婚することになったので、悔いの残らないよう海外挙式にしようと思い、その費用に充てるつもりです」


「くぅぅぅぅぅ、ける、妬けるねぇ! 君みたいな人のお嫁さんになれて、きっと彼女もさぞや美人さんなんだろうねぇ!」


「練習も沢山してきました、精一杯頑張りますので、応援のほどよろしくお願いします」


「さあ、皆さん、彼に盛大な拍手をっ!!!」 


 がんばれー! 絶対達成してねー! いけるぞー!

 叱咤激励の声に包まれながら、青年は目の前にある黒い箱に近づく。


 手を入れてから60秒以内。回答は1問につき1回限り。間違えた時点で終了である。


 いける。やれる。

 青年は覚悟を決めて箱の中に両手を入れた。

 制限時間もあって、中身を恐れている余裕などない。


 触った感じはひんやりとしていて、滑らかで、硬い。

 とりあえず動かなかったことに、青年は安堵をした。これはどうやらモノのようだ。

 細長い。マッチ棒のように先端が少しばかり太くなっている。

 黒い箱の大きさからして長さは40センチ程度。


 これだけだと絞り込めない。もっと細かく触らなければならない。

 答えのヒントは先端にありそうだと青年は踏んでいた。マッチ棒と違って、単純な楕円形ではない。溝が何本かある。


 残り30秒を知らせるアナウンスが聞こえた。


 丹念に溝の付近をなぞっていくうち、青年は不思議な感じを覚えていた。

 何故かは分からない。分からないが、今までに……これ・・に触ったことがある気がする。

 もどかしい思いをする青年だったが、ついに問題の大ヒントを探し当てる。


 それは1つ目の溝を越えた先にあった。別の感触。より冷たく、より滑らかで、より硬い。

 感触をたどっていくと、ざらざらとした別の感触。独特なデコボコだ。


 アナウンスははやすような10カウントに変わっていく。

 固唾を呑んで見守る観客達。


 青年は目を見開いた。答えが出てきた。

 最初は笑い飛ばしたくなった。

 そんな馬鹿な。いくら何でも、そんな馬鹿なモノ・・・・・なわけがない。

 しかし、触っても触っても、嫌な自信が膨らむばかり。

 悪質なイタズラならそれでもいい。不正解ならそれがいい。


 0になる寸前、青年は箱から手を出した。


「さあ、回答は!?」


 ゆっくりと、


「沙織の」


 祈るように、


「僕の婚約者の」


 喋った。


「左腕です……」


 長い沈黙。




「正解ィィィィ~!!!!」


 歓喜の瞬間。

 スポットライトが盛大に点滅する。

 箱の色が黒から一気にスケルトンに変わると、握りこぶしを作った青い左腕がライトアップ。その薬指には装飾が施された指輪がついている。


 観客席のボルテージは最高潮に達した。


「これはどういうことなんですか?」


「いやあ! 正解です、正解! 石園いしぞの沙織さんの左腕、お見事! どうしてお分かりに?」


「沙織は友人と一緒に旅行に向かったはずだ」


「1000万円に一歩近づいたご感想は? 生の感想を聞かせてください!」


 青年は「狂ってる……」と呟きながら、スタジオの出口を見てみるが、スーツを着た筋肉質のスタッフが2名、にっこりとほほ笑むばかりである。

 観客席からは歓声や口笛。スタンディングオベーションで青年の成功を祝福していた。

 どこかに連絡をしようとスマホを取り出す青年に、司会者はゆっくりと語りかける。


「訴えても構いませんよ」

それ・・

「あなたの指紋べっとりなので」

「いくらでも説明できます」


 その発言に多少なり動揺したのだろう、青年の手からするりとスマホが落ちた。ワックスのかかった床を滑り、司会者の足元で止まった。


「なあに、黙ってさえいればいいんですよ。別に私どももあなたの人生に特段興味はありませんからね」


 涙と鼻水を流しながら青年はうつむいた。

 その姿に感動するカメラマン。

 熱いドラマには涙がつきものなのだ。良い趣向だなあと心から思った。


「それでは第2問っ!!」

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