隠していたものが母親にみつかると大体碌なことにならないのは世の常かもしれない
蒼田
下手をすると心に深い傷を負うアレ
今日は彼女と一緒に俺は実家に帰っていた。
夕食を食べ終え風呂に入り体を拭いて寝巻に着替える。
寝巻は白の半そでTシャツに少し余裕のある灰色のスウェット。
夏も終わりに近づいているといってもまだ暑さが残る。
ジワリと汗が滲むのを感じてクーラーの元へ急ぐ。
いつもとは違う冷たく固い床を「メシッ」と音を立てながら、高い声がする部屋へ足を踏み入れた。
「これなんですか? 」
「これはあの子が隠していた箱よ」
「母さんちょっと待って。何でそれをもって……」
「あらお風呂から上がったのね」
「お帰り」
アカリと母さんが俺を向く。
俺は早足で母さんに近付き正方形の黒い箱を奪おうとする。
「あらなにするの? 」
「なにをするって……母さんが勝手に人のものを開けようとするからだろ? 」
「何かやましいものでも入ってるの? 」
「……そんなことは、な……い」
「ならいいでしょ? 」
母さんがにこりと微笑み箱を開ける準備をする。
そんなことはない、と言ったけれど、やましいものしかないから取り返したいんだ。
けれど俺だけの力では母さんから箱を取り返すことはできない。
ソファーに座りテレビの方を向いている父さんへ声をかける。
が、父さんは大きく首を横に振り「すまん」と口を動かした。
くっ……、父さんも当てにならないか。
「これは小さい頃のアルバムね」
「キャァ~。可愛い! 」
「どこに仕舞ったかわからなかったけど……。この箱の中に仕舞われていたのね」
小さな頃の写真っ!
顔が熱い……。
俺がアカリを連れてきたら母さんがアルバムを持ち出すのは容易に想像が出来た。だから先んじて封印していたのに……、無駄だったとは。
が……、母さんとアカリがパラパラと捲っている。
よし。二人はアルバムに夢中だな。
二人の様子をみつつそーっと箱の方へ移動して手を伸ばす。
よし。いける!
バシ!
急に腕を掴まれる。
「な……」
「私もアルバムだけとは思っていないわ」
「くっ……」
「次は何があるのかしら」
母さんはアルバムをいったん閉じて箱を漁る。
や、やめてくれ!
「あ……え? 」
「どうし……え? 」
箱の中身を漁っていた二人が顔を引き攣らせて俺を見上げる。
おずおずと言った感じでアカリが聞いて来た。
「女ものの服? 一体何に……いや誰の? 」
「まさか私の……? 」
「誰が母さんの服なんて入れるかっ! これは文化祭の時やらされた女装に使った服だよ! 」
「でも……」
「大事にしまっているなんて」
「クラスの奴らが「記念に」とかふざけながら渡してきたんだよ。けど処分の仕方がわからなくて」
二人に強く説明する。
「……そういうことにしておきましょう」
「けど、メイクしたら……女装似合うかも」
「それ良いわね。今度試してみましょう。さてお次は……」
「もうやめっ……」
「抵抗しない」
せっかく見つからないように隠した黒い箱。
けれど母さんの前では通用しないようで。
結局の所俺は無抵抗のまま過去の黒歴史を暴かれた。
次の機会に女装させられるという約束付きで。
出来れば男心も察して欲しい所である。
隠していたものが母親にみつかると大体碌なことにならないのは世の常かもしれない 蒼田 @souda0011
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