サイズ感
武海 進
サイズ感
仕事中、僕は帯に短し襷に長しという言葉をよく思い出す。
「また中途半端な大きさだな。これだとあれでいいかな」
目的の平らな状態の段ボール箱を取り出すと数千回繰り返してきた動作で素早く組み立てる。
組み立てた段ボールに商品を入れようとするが、引っかかってしまって入らない。
思わず舌打ちしてしまう。
目測を誤った自分に苛立ったのではない。
日に何度も起こるこの現象に苛立ったのだ。
僕の職場は大手ネット通販サイトの配送センター。
仕事は商品の梱包。
元々忙しい仕事だったが、世界中でとある病が流行して以来忙しさの具合が格段に上がった。
嬉しいことに給料も上がった訳だが、仕事が増えた分思わぬトラブルが増えるようになった。
それは段ボールの大きさと商品が上手くかみ合わないことだ。
原因は流通する商品の種類が増えたことや、単純に一回に注文される量が増えたこと。
おかげで会社が用意している各種サイズの段ボール箱に上手く収める難易度が格段に上がったという訳だ。
「もう一回り大きい箱に変えるか」
組み立てた段ボール箱は後で合いそうな商品があれば使う為に脇に寄せて、一つサイズが上の段ボール箱を組み立てる。
すると今度は上手く入るが、別の問題が発生した。
縦幅は丁度良いのだが、横幅が大分余ってしまったのだ。
別に無事に商品が客先に届きさえすればいいので、後は梱包材を詰め込んで隙間を埋めれば完成なのだが、どうにもスッキリしない。
サイズの合わない段ボール箱や過剰に詰めなければならない梱包材が気に入らないからだろう。
どんな物にだって大なり小なりコストは掛かる。
会社はコストが掛かるとその分、別のところでそのコストを調整して利益を出す。
僕はこの無駄が多い梱包に掛かるコストの帳尻合わせは僕たちの給料で行われているのではと毎度、作業中に思ってしまうのだ。
もちろん給料は上がっているので違うのだろうが、本当はこの無駄が無ければもっと上がるのではという考えがどうしても脳裏を離れない。
「はあ、そんなこと考えても無駄なのにな……」
無駄の多い梱包に無駄に考えを巡らせているよりも、仕事に集中した方が余程給料が上がる可能性が高い。
大きく深呼吸をして無理やり気持ちを切り替えると、僕は次の商品を段ボール箱に入れようとしてまた舌打ちするのであった。
サイズ感 武海 進 @shin_takeumi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます