可愛い妹に、ネコミミとネコシッポが視える。
touhu・kinugosi
第1話
幼いころの記憶。
「……にゃあ」
力なく鳴いた子猫には、二本のしっぽが生えている。
ザアッ
まわりに、桜の花びらが舞った。
◆
朝、自宅のリビングだ。
「ふははは、視える、視えるぞ~、左目の
「右手がうずく~」
ババッ
僕は、突然何もない場所に右手を突き出した。
「ここも、あそこも〜」
空中に
僕の名前は、
家の近くにある普通科高校に通う一年生。
容姿も身長も勉強の成績もまあ、普通である。
しかし、自他ともに認める、“中二病”だ。
「お兄ちゃん、学校に遅刻するよ~」
鈴を転がすような可愛い声がした。
「お、こんな時間か、ありがとう、
中学二年生。
少し切れ長の目に、将来必ず美人になるであろう顔立ち。
抜けるような白い肌に小柄だがしなやかな体。
黒いネコミミとネコシッポ。
可愛い妹である。
「おいしいぞ~、
ネコっ毛の頭を撫でる。
「ん~~~~」
春音が気持ち良さそうに目を閉じる。
ひだまりの匂いがした。
「ふふふ」
突然だが、僕は、”中二病”である。
可愛い妹に、”ネコミミ”と”ネコシッポ”が視えるからな。
そ~と触ろうとしたら怒られた。
「そろそろいくよ」
僕は家を出た。
「いってらっしゃ~い」
◆
朝、教室である。
スパアアンッ
「邪気消滅、急急如律令~」
僕は、親友である
”中二病”だからな。
黒黒とした邪気が見えるのだ。
「…………」
「……おはよう、シュリ、相変わらずだな」
「おはよう、イツキ、邪気がひどいぞ」
「ん、ああ、昨日親とケンカしてな」
バリッ
ついでに黒いもやも消える。
「
「小学校のころからやってるの~」
「おじいさんが師匠らしいわ~」
「ん~、でも、札を貼られた後って妙にすっきりするのよね~」
教室の後ろから女子の声が聞こえた。
ちなみに、
◆
その日の放課後だ。
「ごろにゃ~ん」
フミフミフミフミ
クンカクンカクンカ
「…………」
ネコが、毛布とかによくやるあれである。
「ふにゃあああ~ん、お兄ちゃん好き~~」
ネコミミとネコシッポが、ピコピコ、フリフリ。
「は、春音?」
「お、お兄ちゃんっっ」
布団から上げた顔は真っ赤である。
「にゃ、にゃああああああ」
春音が四つ足で、僕の部屋から逃げ出した。
◆
「お兄ちゃ~ん、お風呂が沸いたよ~」
「わかった、入るよ」
体を洗っていたとき、
「うふふ、一緒に入っていい?」
「昔はよく入ったでしょ~」
「えっ」
更衣室からかすかなきぬずれの音がした。
バスタオルを巻いた春音が入ってくる。
すっかり娘っぽくなった体つきだ。
「は、春音さんっ」
目をギュッとつむりながら、大慌てで背中を向けた。
「うふふ、にゃんっ」
ピトッ
背中に二つの柔らかい何かが当たる。
し、色即是空、空即是色。
現世に極楽を垣間見た。
「はっ」
一瞬意識が飛んでいた。
「そ、そそそ、そういうことは旦那さんとしなさいっ」
「いやっ、可愛い妹は誰にも渡さんっ」
「じゃあ、お兄ちゃんのお嫁さんにして」
◆
二年後、僕は高三、春音は同じ高校の高一になっていた。
僕の通う高校は、”神域”や”聖域”もかくやというくらい浄化されている。
――おやあんなところに黒いモヤが
お札を懐から取り出した。
昼休み、図書委員として図書室のカウンターにいた。
バアンッ
扉が音を立てて開いた。
「あら、
カウンターの隣に座った女子生徒が入り口を見ながら言った。
「お、お兄ちゃんっ、隣の泥棒ネコはだれっ」
ネコ…だけにな。
ふしゃああああ
背後に、毛を逆立てて
黒いもやが周りに立ち込める。
「お、落ち着け」
スパアアアン
額に札を貼る。
「にゃあああっ」
バリイ
「か、可愛い妹をガチで消滅させようとするのやめてくれるっ!?」
――ただでさえ力が強いんだからね
隣からくすくすと控えめな笑い声が聞こえる。
「仲がいいのね」
メガネごしの糸目が優しく二人を見る。
「あっと、こちら、
学校一の美少女で成績も優秀だ。
昔、黒いもやに包まれて周りが見えないくらいに真っ黒だったから、額に札を貼ったら仲良くなった。
大寺院のお嬢様だ。
口許を手で隠し上品に笑う。
「うふふ、子猫さん、私には幼い頃から将来を誓い合った許嫁がいますの」
――座敷の奥に閉じ込めて、私以外会わさないようにしてもいいくらいに想っている、ね
――”泥棒ネコ”とは心外だわ
背後に不動明王を背負った。
「にゃ、にゃあ」
ぞわあっ
全身の毛が逆立つ。
「お、お兄ちゃんは、わ、私のだからねっ」
その夜、自宅で、
「は、
「なあに」
しばらく春音がしがみついて離れなかった。
◆
今日は僕の十八才の誕生日だ。
珍しく、仕事で家を空けがちの両親と祖父がいる。
「
日頃ふざけ気味の祖父が真面目な顔で言った。
祖父は、”中二病”の師匠である。
「
「うん、”中二病”設定だよね」
祖父に小さいころから聞かされていることだ。
「いえ、本当の話よ」
母が言う。
「そうだ、
父だ。
「えっ」
「じゃあ、黒いもやも、母さんの金色の目と額の二本の角も……」
後で知ったが、母は鬼神だ。
「春音の、”ネコミミ”と、”ネコシッポ”も本物なのかっっ」
僕は叫んだ。
「”ハル”を覚えてる?」
「小さいころ、あなたが拾ってきた子猫の、”ハル”よ」
母が聞く。
「うん、確か五才の時だよね」
桜の花びらが舞い散る木の下で、カラスに
――ん? カラスの脚が三本あったような
「ハルは、すぐにいなくなったよね」
そ~っと、春音が手を上げる。
「……私です……」
二股に分かれたネコシッポがゆれた。
代々、
本来なら十八才まで異能の力は封印されるのだが、僕の力が強すぎて封印しきれなかったらしい。
”鬼神”である母の血が原因だそうだ。
あふれ出る異能の力を、”中二病”という設定で誤魔化したのだ。
ついでにネコマタだった、”ハル”を、”春音”と名付け妹とする。
「修理が邪気にまみれたネコマタを、神使である
ついでにネコマタ(春音)の邪気をはらっている。
「えええええ」
つまり、春音は、血のつながった妹どころか、”人”ですらなかったのだ。
「お兄ちゃん、だ~い好きっ」
春音が、遠慮なく自分の匂いをつけるように体を
◆
あれから数年が経ち、大人になった僕は、”退魔士”として働いている。
「ただいま~」
仕事から帰って来た。
「お帰りなさい~」
エプロンをした春音が出迎えてくれる。
春音は背も大きくなり、黒髪を肩まで伸ばしたとんでもない美人になっていた。
僕たちは結婚して、五つ子を産んだ。
どの子供にも頭に小さなネコミミがついている。
「し~」
「今寝たところなの」
春音が口の前に指を立てた。
彼女に似て可愛い子供たちである。
彼女の背中越しに
チラリと白い首筋が見える。
「春音、愛してるよっ」
春音を後ろから優しく抱きしめ、ネコミミにキスをした。
「ごろにゃんっ」
可愛い妹に、ネコミミとネコシッポが視える。 touhu・kinugosi @touhukinugosi
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