第23話

 翌朝、俺はカフェに行く。

 滅多にない、たくさんの退魔師との交流の日なのだ。場所はいつものユウカさんのカフェ。

 さあ、今日はどんな人達と出会えるだろうか。

「ユウカさん、こんにちはー」

「強君いらっしゃい。もう集まり始めてるわよ」

 ドアを開けて店の中を見渡すと、ボックス席、カウンター席関係なくぽつりぽつりと人がそこにいた。中には影を連れている人もいる。

「今日は退魔師しか入れない特別な日だから、初見さんは基本お断りなんだけど、ここにいるほとんどの人達は花開院君の紹介で来たのよ。だから楽しくやって頂戴。お通しはカプレーゼよー。席は自由だから、途中で席を変えてもいいわよ」

「ありがとうございます」

 カプレーゼが乗ったお皿を受け取り、まずは一番近くにいるカウンター席の女性に声を掛けることにした。

「お隣、よろしいですか?」

「ええ。どうぞ」

 どことなく葛さんを彷彿とさせる艶のある声だ。

「あなたとは初めてね。私、仙台の方の退魔師なんだけど、花開院さんにここを紹介されてね。丁度上京したかったから、来てみたのよ。名前は春川麗。よろしくね」

「僕は川崎強です。よろしくお願いします」

 こうして僕は自己紹介をして回り、結局麗さんの隣に座ることで落ち着いた。

「挨拶回り、ご苦労様。ねえ、私と話さない? さっきから退屈してたの」

「ええ。いいですよ」

 俺達は互いに何故見えるようになったのか、そしてどうして退魔師になったのか。また、その戦い方などを話した。

 話をしてみると意外と共通点があるようで、異なる部分も多々あった。

 十人十色と言うだけあって、いろいろな人がいるのだろう。


 カランカランとベルが鳴り、ドアが開く。

 そこには待ち望んでいた花開院師匠の姿があった。

「やあ。もう集まっているね。それでは交流会、始めようか」

 師匠の後ろから雫さんがぴょこんと顔を出した。

「こんにちはー。皆さんお久しぶりです」

「……こんにちは」

 京子さんも一緒だった。

「今回いるのは、全員私の弟子か、私と横の繋がりがある人だけだ。皆気兼ねなく過ごしてくれ」

 そうして宴は始まった。

 俺は何故だか麗さんに気に入られ、何度か話しかけられた李、膝に手を置かれたりもした。

 そういうことが苦手な俺は、苦笑いしか出来なくて、それを見た麗さんは一言「ごめんなさいね」と言ってべたべたと触れて来ることがなくなった。

 麗さんと話さなくなると、師匠が俺の隣に座った。

「強君、久しぶりだね」

「師匠。お久しぶりです」

「噂は聞いているよ。随分働いているみたいじゃないか。弟子になりたいって子もその内出て来るんじゃないか?」

「ああ、弟子、ですか。俺は弟子を取るつもりはありませんよ。そんなに器用じゃないし、影丸がいますから、それ以上を望んだら罰が当たりますよ」

「そうかなあ。君は私達と同じで師匠向きだと思うんだけれどもな。あ、煙草吸ってもいいかい?」

「ええ、どうぞ」

「悪いね」

 師匠は煙草を吸い始めた。そして時折俺を横目で見てはこう言うのだ。

「いつもその影と共闘しているんだってね。私も人間と影に友情があると、信じざるを得なくなってきたかな」

「普通いませんけどね。ここまで協力してくれて、一緒に話してくれる自我のある影なんて」

「まあな。それはそうだ」

 そこで一旦会話が途切れると、ドアが開いて驚きの人物がやって来た。

「花開院さんの紹介と、川崎さんに会いたくて来ちゃいました。まだ退魔師じゃないけれど、良いですよね。今に、川崎先生の弟子になるので」

「新藤さん……! え、弟子ってどういうことですか? 師匠? これは一体……」

「君の退魔師としての仕事にえらく感激したらしくてね、自力で私の連絡先を見つけて連絡してきたんだよ。川崎強先生の弟子になりたいのでお話させてくださいって。ここまでガッツのある子、今時珍しいくらいだ」

「川崎さん。いいえ、川崎先生! 俺をぜひ、弟子にしてください!」

 どうしたものかと考えていると周りから「弟子にしてやってみたら?」「ダメだったらダメだったでいいし」などという声が聞こえてきた。

 仕方ない。今回だけ、弟子を取ってみよう。そう思えた。

「わかりました。弟子を取ります。よろしくお願いしますね。新藤さん」

「新藤さんだなんて、もっと気軽に将司と呼んでいただいていいんですよ」

「わかった。じゃあ、将司。これからよろしく」

「よろしくお願いします」

 この会は夜遅く、終電が出るぎりぎりの時間まで続いた。


 俺は今、弟子と影の影丸と共に退魔師をしている。

 以前の自分と同じような目に遭っている人や、困っている人を助けられるように。

 お金は精々交通費を貰う程度。だが、それでいい。

 退魔師が率先してお金を貰ってはいけないのだと、俺は考えるからだ。何故なら、退魔師は陰にならなければならない。普通ではない人間だからだ。


 今日も依頼で、ある店に来ている。

「師匠、今日の仕事はどうサポートすればいいですか?」

「馬鹿。こっちがサポートする側だ。お前がメインに動いてみろよ。影丸を使ってもいいから」

「え、俺? 俺、強ならいいけど、将司は嫌だなぁ。俺、使われるの好きじゃない」

 嫌がる影丸。しかしそこへおどろおどろしい空気が漂い始めた。

「……無駄口を叩くのはそこまでだ。早速敵のお出ましだぞ」

 今日も、俺達は影と戦う。

 影で困っている人達のために。

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影と共に陰で生きる 根本鈴子 @nemotosuzuko

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