第51話 オトコはロボット?

「そう言えば、違う会社のパーツなのに、どうしてアライメント(統合調整)が取れるんですか?」


「んん?君、機械工学は詳しくない?……サイボーグのオーグメントは、各企業間における国際法……ならぬ『世界企業規約』で、ある程度規格を定められていてな。パワーノードやチャネル、アクチュエータの過多、センサの感度に神経接続ラインのバイアス……、色々あるが、全てのオーグメントはその規約の範囲内で作られている」


「……何で?」


「純粋にその方が便利だからな。世界大戦頃のオーグメントなんて酷いぜ?神経接続ラインがメチャクチャで、肘を動かしたら手の甲からミサイルが飛び出た!みたいな話もよくあった。使う前に、脳核側で制御ソフトの再編は必須だな。合わせる為のリハビリもキツい」


「ええー!酷い!」


「だろ?今の製品は良いぞ〜、アライメントを取らなくても、付属のインストーラを使って接続すれば、素人でも動かせる!……まあその分、緻密さは失われたし、使いやすくなったから後進国なんかに大量流通して酷いことになってるが」


「海外は怖いねえ」


「まあ、日本だってメガコーポに楯突けば即死ねるんだから、酷さは同じようなもんだぞ?ただ、日本は優しいので、殺す前にちゃんと逮捕だの裁判だのと手順は踏んでくれるからな。法治国家ではある」


……散々カッコつけておいてアレだが、今俺は、アイリス学園で普通に講義をしていた。


何故か?


まず、戦争と言ってもまだ始まったばかりだし、そもそもがそんなに派手にやり合わないらしい。


百年戦争が百年間ずっと戦争している訳ではない、みたいな話だろうか?いや違うか。


都市の住人達からすると、「毎年恒例の治安極悪化イベント!」みたいな感じっぽい?あんまり、みんな気にしてないな。


それもそうか。戦争だって言っても、都市の住人全員がいきなり殺し合う!とかではない。バカ共がイキリ立つから気をつけましょうねー、って感じだな、この雰囲気は。


そんな訳なので、適当に街中にドローンを飛ばして、監視カメラなどをハッキングし、暗躍している生徒達の姿を見てあげつつ、普通の授業もやっていきます。


「はーい、じゃあ今日は本土のお話をしちゃおうかな?まあみんなも、本土から来てる子もいるし分かるだろうけど……」


「え?私達、生まれも育ちも学園都市ですよ?」


「国有の遺伝子から合成された試験管ベイビーですね」


「遺伝上の親がいる子は……、三割くらい?」


「って言うか今時、生の子宮で育った子なんて、1%もいないんじゃ……?」


アッハイ……。


相変わらずマッポーめいてるな……。


でもこんなもんか。


「じゃあ尚更、本土の話を聞くと良いよ。多分君らも、大人になったら本土に行くことになるだろうからさ」


「はいはい!じゃあ、しつもーん!」


おや、いつぞやの軍オタ女か。


「何だ?」


「何で本土の……ってか、男の人の多くが、顔をサイボーグヘッドに換装するんですか?タクティカルアドバンテージ重視というのは分かりますが……」


ああ、はい。


それね。


この国では男の殆どは、顔がロボットのようなサイボーグヘッドに換装している。


男の見た目は基本ロボだと思ってもらって良い。


え?犬?見た目が犬の男は居ないんじゃないか……?


とにかく、男は殆ど、顔も身体も、民間に許された限度の機械化率30%の上限まで改造済み。現役軍人ともなると基本50%は機械化している……。


何故か?


「いや……、あのね、楽なの。マジで」


「楽?」


「髭剃りも、眉を整える必要も、髪を切る必要もないからな……」


「で、では、代謝システムをオフラインにすればよろしいのでは?」


「俺はそうしてるが……、それでも、人の顔だと手入れは必須だろ?男は、君達女の子と違って、顔を手入れしても面白いと感じられないのよ」


「あ、あー……。オシャレ自体にあんまり興味がない、と?」


「そういうことよ。例えば、この学園都市のみのローカルで流行っているオーグメント開発企業、『エイジャーナカト』だが……、こんなの、本土じゃ見たことなかったわ」


可愛い猫耳や猫尻尾、髪の色を変える染色体異常化インプラントに、瞳の模様を変えるおしゃれアイテム……。


もうね、おしゃれアイテムとしてのオーグメントなんて、今まで見たことなかったもんね。


オーグメントってのは基本的に、軍事産業の産物。


それを、利便性を軽視してでもオシャレに極振りってのは、もう……、中々ないよ。


「う、うーん……」


あら、納得できない?


俺は、こんなこともあろうかと、教材として本土の男性がよく使っているオーグメントを持ってきていた。


「これ、『コーヨー社』の大衆モデルモニターヘッドな。みんな大体これだ」


頭。


形?ううん……、ブラウン管のテレビ……?


いや、映画泥棒?


とにかく、縦長のモニターだ。


その下に、四角い顎と、それを保護する手すりと言うか、バーがついている。


「これはなあ、見た目はダサいが、使い勝手がいいんだよ。まず、瞳。俺達サイボーグは基本的に瞳を合わせての電脳ローカルネット通信が可能だろう?だから、この大型モニターアイだと、センサ部が大きくて通信が安定する訳だ」


それと……。


「顎。ここも重要だ。口がアシンメトリー型でな、右側には攪拌機と咀嚼用の回転刃、左には吸引用の括約コイル。右で咀嚼、左で吸引だ」


「えぇ……?」


「お前らと違って、唇も歯も舌もない。他にも、軍用モデルだと、頭部じゃなくて胸や喉に口があるタイプとかも多いぞ〜」


「そんなんじゃ、ご飯が美味しくないのでは……?」


「美味いものなんて本土にはねーよ。脳核側で補正かけて、味や食感を調節するのが普通なの!」


「じゃ、じゃあなんで、この学園都市はご飯が美味しいんですか?」


「あー……、それは多分、この都市が学園の生徒によって運営されているからだろうな。本土の飯はサイバネ食が殆どだぞ?と言っても、最近は学園上がりが多いからな、生の口で楽しめる飲食物も多いらしいが」


「サ、サイバネ食〜?!あれ、めっちゃくちゃ美味しくないじゃないですかーーー!!!」


うん、そうね。


「軍が生産している合成食品だし、美味い訳ないでしょそりゃ」


まあ、日本のはかなりマシだがな。


海外のサイバネ食とか、なんか土みたいな味するスムージーとか、木材みたいな味する栄養ブロックとかそんなんばっかだぞ。


「不味い」だけマシじゃない?


「あんまりこういうことを言いたくないが……、本土は厳しいぞ?メガコーポで働くなら、休みはないし、ミスをすれば命に関わると思え。ここで楽をできるのは、学園長の厚意だ。逆に言えば、こんな恵まれた環境でダメになっちまうなら、自己責任ってこったな」


そんな風に、俺が締めの言葉を発した、すぐ後……。


シンジュク・シティで大規模な武装勢力同士の衝突が起きた……。


よしよし、見に行ってやろう。

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サイバーパンク学園 〜元伝説の兵士がサイボーグ女子校で教師生活〜 飴と無知@ハードオン @HARD_ON

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