レプリカ

めいりお

第1話

レプリカ




『音楽家 巨匠 赤山青木さん死去 127歳』


ネットニュースの片隅でそんな文字列が踊る。

暇だったので開いてみることにした。同時に、聞いた事のある音楽が流れ始める。

曲を聞き流しつつ、記事を流し読みする。表示数は3000。全然見られていない。

流れている曲は亡くなった音楽家の代表曲らしい。

音楽に疎い自分でも聞いた事のあるくらいなのだから、まあ巨匠と名乗るのも嘘ではないのだろう。

死因については「故人のプライバシーに触れるため記載いたしません」とわざわざ謝罪文が書いてあった。当然のことなのにこんなふうに謝らなきゃいけないのは少し同情する。まあ、文句を言う人が未だにいるのかもしれない。


記事に飽きたので動画サイトを立ち上げた。

勝手に流れ始めた広告で、最近売れているらしいアイドルの新曲が流れてきた。

作曲者に先程見た名前が映る。

いやちがう、赤山青木®。

赤山青木はレプリカを作っていたらしい。今どき作らない方が珍しいけれど。



仕事を終えて帰ってきた母に言ってみた。


「赤山青木、死んだらしいよ」

「えっ!」


あの人がと驚いた顔をしたので「知ってるの?」と聞く。


「もちろん。だって私たちの青春みたいなもんよ。

……あーほんとだ。あ、でもレプリカあるじゃん。オリジナルの話ね」

「そうに決まってるじゃん」


母はびっくりさせないでよもう、と笑った。



私たちの周りは死人の作ったコンテンツでいっぱいだ。気にしてみると、®マークは至る所に溢れている。

私が今読んでいる漫画も、母が好きなドラマ番組も、もうとっくに死んだ人のレプリカが作っている。


レプリカ。その人の性格、思考、技術、記憶とかをコピーしたAl付きロボット。クローンよりもレプリカの方が安いからそっちの方が多い。だってレプリカなら食事とか健康とか考えなくていいからね。

生前希望すれば、人はレプリカを作ることができる。昔の人は抵抗があったらしいけど、今はみんな自分のレプリカがいる。特に何かの制作者については、ファンが熱望することもある。

だって誰だって自分が追ってたコンテンツが途中で終わったら嫌じゃない?

続きを望むし、永遠に故人が作ったであろうコンテンツが生み出される。みんな大っぴらには言わないけれど、レプリカさえあればオリジナルが死んだっていい。だってこちらからすれば、オリジナルもレプリカも同じ。


人の死が軽くなったとおじいちゃんは言っていた。私にはよく分からない。

おじいちゃんのレプリカはあるけれど、その会話のことを聞くことはできないのはちょっと不便だ。これはオリジナルとした話で、レプリカにはしてないから。会話の同期をする前にオリジナルが死んでしまった。運が悪いと言われた。

レプリカも多分同じことを言うとは思うけど。




「夕飯できたよ」

「はーい今行く」



端末を閉じてリビングの椅子に座る。



「今日はビーフシチュー」



母が得意げに笑う。



「母さん、まだじゃがいも半煮えだよ」



私はスプーンを持ってそれを食べているふりをした。

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レプリカ めいりお @annin_to_uf

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