箱──その不可思議性と醜悪な中身。【KAC2024 第3回お題「箱」】

絢郷水沙

そこには何があったのか。

 主婦の山中やまなか澄子すみこはある日、不思議な箱を手に入れた。それは、一辺が三十センチほどある立方体の箱。その箱は、持ち主が願ったものをなんでも中に出してくれるという。


 全く信じていなかった澄子すみこだが、物は試しとは、ついこの間失くして使えなくなっていた自転車の鍵が出てこないかと、箱に願ってみた。


 箱をゆすると、何か音がする。


 まさかとは思った澄子だが、そのまさかは起きていた。

 ふたを開けて確認してみると、一つの鍵が入っていた。がちゃりと回すと、確かに自分がこの間失くした鍵であることが判明した。


 仕組みは一切わからない。だが、その箱が本物であることは確信した。





 それからというもの、澄子はいろいろなものを願っては、その箱で取り寄せた。そして澄子は使っていく中で、いくつかの法則を発見した。


 一つ、箱よりも大きいものは願っても出てこない。


 二つ、実物を見たことないものは願っても出てこない。


 たとえば、「冷蔵庫が欲しい」と願っても箱が小さすぎて、出すことはできない。であれば、「大金が欲しい」と願って、出てきたお金で買えばいいという話になりそうだが、それもできない。なぜなら、澄子が実際に目で見た金でないと出せないからだ。箱もそれなりの大きさで、持ち歩くには人目を引く。世の中、そう都合よくいくものでもない。





 都合よくいかないといえば、澄子には照正てるまさという夫がいた。


 照正は浮気をしていて、そのことを上手く隠していると思っているようだが、澄子はとっくの昔に気づいていた。


 そのことで離婚したかった澄子だが、あいにくと確実な証拠がない。一度照正が寝ている間にスマホの中身をチェックしたことがあったが、それらしき連絡のやり取りなどは見つからなかった。


 だが、ある日のこと。


 澄子が照正から、


「家に大事な書類を忘れてきたから仕事場まで持ってきてほしい」


 と頼まれて、届けに行った時のこと。仕事中の照正は、見慣れるスマホを持っていた。


 澄子は問う。


「その携帯はなに?」


「なにって、仕事用のだけど」


 その時、澄子は確信した。そのスマホで浮気相手と連絡を取り合っていたのだと。


 書類を渡した澄子は何食わぬ顔で立ち去り、家に帰るとさっそく箱に願った。




 一度目にしているので取り寄せることには成功した。しかしながら、パスワードがかけられていて中が確認できない。澄子は、照正が普段家で使っているスマホのパスワードを入力してみた。


 しかしやはりというべきか、世の中そう都合よくはいかない。



 そこで澄子は考えて、一つの妙案を思いついた。その案とは、夫に復讐し、かつ、証拠を確実に手に入れる方法。同じ機種だ、可能性はある。


 澄子は箱を手元に持ってくると、あるものを願った。ふたを開けるとそれは入っていた。澄子が


 どうやら妙案は成功したようだ。


 仕事用のスマホからは、浮気相手との生々しいやり取りの数々が見つかった。相手は年下の同僚だ。


 澄子は箱の中身を取り出して庭に埋めた。そして、、浮気相手に会いに行くことにした。

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