ミステリー研究会の謎解き

すみはし

消えた黒田の謎

某高校ミステリー研究会は謎に直面していた。

正確に言うとミステリー研究会というか、オカルト研究会というか、クイズ研究会というか、何かしらがごった煮になったホラーオカルトクイズな頭脳的なアレなのだが。


このミステリー研究会、現在部員7名。

部室内でのなんとなく座る席は決まっていて、部長である3年の赤井が1番の窓辺を陣取り、その前に同じく3年で副部長の青木、それからは2年の黄辺、緑谷、1年の白川、桃瀬、黒田がなんとなく席順に座っている。


そんな中で黒田のいつもいる机の上に赤い箱、緑の箱、白い箱が置かれていたのだ。

しかもそのはこの前には黄色い付箋に桃色のペンで「ごめんなさい」と書かれたものが貼り付けられていた。


この三つの箱とごめんなさいにはなんの意味があるのか、これは黒田からの挑戦状、或いは謝罪、或いは告発なのではないだろうか。


黒田は頭は回るもののひねくれ者で、揚げ足取りが上手で、いつもゲームをしていて、聞いていないように見えるがヌルッと会話には参加するような、とらえどころのないタイプ。

そしてこの研究会で皆勤賞レベルの参加率、かつ部室の鍵開け担当と言われるくらいの速さを誇る部員であった。


そんな黒田が今日は鍵も開けず、一向に顔を出さず、この箱と付箋だけを残して姿を消したのだ。


「これなによ、黒田はいないの? せっかく部室に置きたいって頼まれた『彼氏彼女の事情』全巻もってきたのに…誰か何か知らないの?」

赤井は重たそうに全10冊の文庫本をドサッと自分の席に置いてため息を吐く。

全員を見渡すが名乗り出るものは居なかった。


「俺は何も知らないけど…これって何かやっぱり意味があるのかなぁ。貸してたゲームも急に昨日返してくれたし…」

黄辺が眉をひそめ、返してもらって置きっぱなしにしていたモンハンに視線をやったあと、並んだ箱に視線を移す。


「これって…折り紙ですよね?」

桃瀬がポップな桃色の長いネイルの先で箱をツンとつついて箱(正式には箱のように折られた折り紙)を転がした。


「昨日黒田くん、最後の方まで残ってましたよね? あと誰がいましたっけ」

白川が眼鏡越しに部員を見渡し首を傾げる。


「俺と青木さん、黒田が最後の方までいたけど…俺が帰った後のことは知らないな」

緑谷が昨日のことを思い返すように斜め上に視線をやる。


「ってことは、青木さん何か知りませんかぁ?」

白川は机を色んな角度から眺めながら青木にパスを出す。


「なんだよ、俺は知らないぞ、結局黒田が鍵を閉めるって言うから先に帰ったし」

青木は自分が少し疑われていると思ったのか不満げに答える。


「あ、これって作り方の説明書?」

コロコロと折り紙を転がしていた桃瀬が『簡単! 折り紙で作る箱』と印字された紙の入ったクリアファイルを見つけて取り上げる。


「ちょっと、桃瀬、今それ重要じゃないから」

赤井はこんな時に自由にものを触る桃瀬に少しムッとしつつ続ける。

「これは黒田からの暗号だと思うんだけど」


「暗号…状況整理してみましょうか」

白川はサッとメモを取りだしスラスラとメモを書出す。


□■□■□■□■

黒田(不在)

箱:赤い箱・緑の箱・白い箱(並び順)

付箋:黄色

色:ピンク

メモ:「ごめんなさい」

■□■□■□■□


「えー、これ絶対ウチら部員カラーじゃない?」

桃瀬がウケる、と笑いながらメモの色部分を指さしていく。


「ホントだ、やっぱり何かを暗示しているのかな」

黄辺はぷよぷよとした顎に手を当て探偵のように難しげな顔をする。


「赤井さん、緑谷こと僕、白川さんを表した箱、黄辺を表す付箋、桃瀬さんを表すピンクのメモ…ここにいないのは昨日黒田と最後まで残ってた青木さんだけど…」

緑谷はやっぱり…というように青木に目を向ける。


「俺の事疑ってるのか? …待てよ、よく見てみろ、さっき桃瀬が触ってた作り方の説明書? の文字は青いじゃないか!」

なぜ自分が疑われるのかと不満気な青木は先程桃瀬が見つけた説明書を指差す。


「そうなると考え直しになりますよぉ…」

白川は残念そうにしながらも目の前に置かれた謎に頭を巡らせる。


「あぁ、その理論で行くなら俺より付箋の『ごめんなさい』を気にするべきなんじゃないか?」

青木は黄辺と桃瀬を順に見やる。


「黄辺、桃瀬、あんたたち隠れて付き合ってたりしないの?」

「そういえば桃瀬さん、案外黒田と仲良かったよね。それで勘違いして黄辺が…」

「そうそう、私たちには分からない『彼氏彼女の事情』ってヤツ?」

赤井と緑谷が黄辺と百瀬、そして黒田の関係を邪推する。

赤井はもしかすると黒田はその皮肉を込めて『彼氏彼女の事情』を借りようとしたのか、などと考えを巡らせていた。


「いやいや、申し訳ないけどギャルは僕の好みじゃないよ〜!」

「は? デブ先輩とか眼中に無いんですけど! それならなんだかんだひねくれてても話し合うし黒田の方がカッコイイしずっとマシ……や、そもそも誰ともなんでもないっつーの!」

清楚系が好みなんだと首を振る黄辺の頬の肉が揺れる。

そんな黄辺を見て眉間に皺を寄せて桃瀬が不満気に声を上げるが、途中から黒田ホメを始めてしまったことに気付き慌てて否定する。


白川は状況整理のメモを続けつつ、桃瀬の微笑ましい一面にクスリと笑う。

「でもそうなると、黄辺さん、桃瀬さん説も無くなるんですかねぇ…」


「でもあのひねくれ黒田だと、なんにも意味のないことをするとは思えないんだが、だが…」

青木がこの解決しないモヤモヤき唸り声をあげはじめる。


「おー、お前らどうした集まって」

ガラリと戸を開けて入ってきたのはミステリー研究会顧問の虹村だった。


「あ、虹村先生! 黒田くん見てませんか?」

白川は虹村が黒田のクラスの担任であることに気づき、手を上げる。


「黒田? 普通に授業にはいたけど…」

虹村はキョトンとした顔で白川に答えるが、周りも一斉に自分の方を見たことに驚く。


「授業にはいたけどー…ってことはー?」

余計に不思議な状態になってしまい全員は見つめあって頭を抱える。



「あぁ、そういえば黒田なら家庭の事情で早く帰らなきゃならなくなったらしいから、3ヶ月くらい休部するって伝えといてくれって言ってたぞ」

虹村が思い出したように言う。



箱が3つ、ごめんなさい、手順を書いた説明書、ついでに『彼氏彼女の事情』…

キューブが3つ、ごめんなさい、作り方の過程を書いた説明書、ついでに『彼氏彼女の事情』…

休部が3つ、ごめんなさい、家庭、ついでに事情…………

家庭の事情で3ヶ月休部…………



全員の脳内でゆっくりと変換されていく。

色なんてなんの意味もなかったのだ。

ひねくれた黒田の意地の悪い笑顔が目に浮かんだ。

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