箱型勇者ブレイボックス
国見 紀行
第1話? その名はブレイボックス!
「ねえねえお姉ちゃん、アレかってよ!」
少年が指差すそれは、いま子どもたちの間で大人気のロボットアニメ『ブレイブトレイン』のおもちゃだった。
税込み7780円。七台の電車が合体するというサイズも価格も超ド級のおもちゃだ。
「ダメよ! ママが帰ってくる前に洗濯物も片付けないといけないし! 代わりにこれ買ってあげるから!」
「あー…… おかし」
おもちゃの代わりに渡されたのは一個77円の、小さなチョコが詰まったお菓子だった。
「さ、帰るよユウゴ」
ユウゴと呼ばれた少年は姉に手を引かれてスーパーを後にした。
「じゃあ、姉ちゃんは洗濯物取り込んだらご飯作るから、ユウゴはテレビでも見ててね」
「はーい……」
ユウゴは言われた通りテレビを点ける。ちょうどアニメの始まる時間だ。
しかしユウゴは、今日に限ってアニメに集中できない。先程見たブレイブトレインのおもちゃに、すっかり心を奪われてしまっていたのだ。
「僕もほしいなぁ、ブレーブトレーン」
すっかり食べ終わった空のお菓子箱を振りながら、ユウゴはあることを思いついた。
「そうだ! 自分でつくろう!!」
考えるやいなやユウゴは居間にあるセロハンテープを持ち出し、買ってもらったチョコの箱にペタペタ貼り始めた。
「できたー! よし、キミの名前はブレーブチョコだ!」
少年はそれを手に外へと出た。
飛行機が飛ぶようにお手製のロボを空へ飛ばし、何度か離着陸を繰り返す。
「ぶーん、ぶー…… あら、なんだこれ」
玄関先と庭を行き来していると、先ほどはなかったと思われる小さな穴を発見した。
「穴が開いてるけど…… あったっけ?」
『だれかそこにいるのか?』
「え!?」
少年は突然聞き覚えのない声を耳にした。
「だ、だれ?」
『む、現地の人間か…… おお、良いものを持ってるじゃないか』
「え、これ? かっこいいでしょ!」
『それをもうちょっとこちらへ…… そう、そう』
すると穴の奥がキラリと光った。
『ブレイブ・イン!』
「わっ、なに!?!?」
少年の目が眩むほどの強い光が穴から発せられると、突然手に持っていた箱が強い力ではじけ飛んだ。
『少年! ありがとう。私の名前はヘキサル! いまこの星に脅威が迫っている!』
「きょうい?」
『ああ。危険な連中がこの星を狙っているんだ!』
「えーー! やっつけないと!」
『よし、協力してくれるかい?』
「うん!」
少年が箱のロボットを空に掲げると、突然空が紫に瞬いた。
「わっ、なに!?」
「きゃあぁっ!!」
光が止む直前に『どがあああああああん!!』とテレビから轟音が鳴り響いた。
「え、なに、なに!?!?」
姉が驚いてテレビを見ると、ちょうど空の様子を映していた画面から大きな飛来物が降ってきている場面だった。
少年も部屋に戻ってテレビを見る。そこには突然の災害に慌てる人たちが映し出されていた。
「え、嘘…… 人が、ビルが!!」
「なに…… これ……?」
それが地面に衝突する。地響きが自分たちの家にまで響いてくるのを見るに、ごく近場でこの惨劇が起こっているようだ。
「お姉ちゃんだいじょうぶ?」
少年はわなわなとへたり込む姉を心配するが、座り込んだまま肩をたたいても背中を叩いても反応しない。
「……なんか、外がさわがしい?」
とてとてと外へ出る。空は紫色の雲に覆われ、所々に穴が空いていた。人や車が穴とは逆方向へ逃げる中、少年はぼんやりと空を眺めていた。
『まずい! あそこで奴らが人を襲っている!』
「え? あ! 本当だ!」
ヘキサルが少年の手の中で今なお破壊活動を行っている箇所を指し示す。
「よし、やっつけようヘキサル!」
『ああ、向かってくれ!』
ダッシュでその場所へと向かう。そこは、丸い球体がいくつも連なってできた怪物が、人々に怪しい光線を浴びせていた。
「グハハハハ~ お前たちはもっと丸くなれ~」
「キャー! いやー!!」
『まて、アンチキュービット!』
「ぬ!?」
ヘキサルの声に怪物がその手を止める。
「くっくっく。遅かったなヘキサル。この星の主導権は我らが頂く!」
『くっ、既にあれほどの力を…… 少年!』
「なに?」
『私を掲げて、こう叫んでくれ! ゴニョゴニョ……』
「わかった!」
少年はヘキサルを掲げ、声高らかに叫んだ。
『「チェーンジ! ブレイブ・コネクト!!」』
――説明しよう!
ブレイブ・コネクトとは周囲一キロ圏内の箱状の物にアクセスし、自身の体として召喚する技なのだっ!
「うわあ! あちこちから箱が!」
『とうっ!』
段ボール箱、木箱、冷蔵庫…… ありとあらゆる箱が、ヘキサルを中心に人の形をとる。
『勇者、ブレイボックス! 見参!!』
ヘキサルは新たな身体を手に入れ、球体の怪物に向かってポーズをとる。
『アンチキュービット! これ以上の狼藉は許さん!』
「くそ、言わせておけば!」
怪物は足元に転がっていた謎の球体を手にしてそれを投げつける。
「これでも食らえ!」
『ふん!』
それをブレイボックスは胸の箱を開いて収める。
『ブレイブ・リペア!』
収めた箱がカッと光ると、中から自動車が現れた。
『何でもかんでも丸く変化させる愚かな種族よ!』
「六面体風情が! しかし分が悪い……」
『逃がさん! ブレイブ・ウォーール!!』
ブレイボックスが両手を上に振り上げる。怪物を囲む壁が現れ、完全に怪物を拘束した。
「な、なんだこれは!?」
『とう!! 遊んだ後は、きちんとおかたづけ! ブレイブウウウウウウウウ!!』
ちょうど空いている上部に飛び上がるブレイボックスは、大きな一つの箱に変わっていく。
そして、重量にまかせて落下を始めた。
『キューーーーーブ・イン!』
「ぐああああああああ!!!!!」
箱の形に怪物は押し込められ、封印された。
「すごいや、ヘキサル!」
『安心するのはまだ早い。このような怪物がいま、この星を蹂躙しようとしているんだ! 少年、力を貸してくれるかい?』
「もちろん!」
こうしてユウゴは小さな勇者ヘキサルとともに、地球を救うこととなった。
戦え、ユウゴ、戦え、ヘキサル!
戦え、ブレイボックス!!
箱型勇者ブレイボックス 国見 紀行 @nori_kunimi
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