Spellbound(まずはひとつ……ですね)

――コンピエーニュ迷宮・一層

 作戦開始。

 その有働3佐の号令と同時に、私達は迷宮入り口前に集合しました。

 そして私を除く全員が闘気を練り始めます。

 私はその横で、自衛隊空挺迷彩服2型から魔導師装備に変更。

 武器も魔導師の杖に持ち替えて準備完了です。


「闘気錬成完了!!」

「闘気錬成完了!!」


 体内の闘気錬成が終わった隊員から宣誓が始まるので、私も次のステップに移行します。


「七織の魔導師が誓願します。我が周囲に五織の風を纏わせ給え……我はその代償に、魔力一万五千二百を献上します。殺虫植物の吐息パイリース・コイルっっっ」


――シュウウウウ

 この術式は、異世界アルムフレイア原産の凶悪な肉食植物『ノーマッド・バロン』の葉脈から放たれる殺虫フェロモンを術的に作り出すものです。

 なお、当然ですが効果はかなり減少しています、原液レベルで発すると人間も意識を失い過呼吸するレベルですので。

 ちなみに、この術式を攻撃特化に組み替えた『ノ-マッド・ブレス』というのもありますが、これがまた無差別に範囲のものすべてを殺害するだけでなく、その土地にまで染みついて土壌を汚染するので、現在は魔術教会でも禁忌術式とされています。

 ええ、あのカルスコイア平原毒沼事件というのがありましてですね……と、作戦中なので割愛します。


「……うん、如月3曹、ちょっと離れた方がいいかな?」

「そうですね。私が術式を再構築したので人間には害はあっても闘気修練者は自動的に中和するので無害なのですけれどね」

「最初の部分で十分危険なものだということは理解した。ちなみにそれを洞窟内部に充填してみたらどうなるのかな?」


 一ノ瀬2曹がそう問いかけるので、私はざっとかるく計算します。


「そうですねぇ……洞窟は完全に汚染されるので、だいたい200年ぐらいは人の立ち入ることができない土地になります。また、洞窟の入り口からも絶えず瘴気のようなものが溢れるので……この迷宮から半径50キロメートルぐらいは自然が失われますが?」

『それは、術式制御なり効果縮小でどうにかできないのか? 君は魔導師なのだろう?』


 うん、よそ様が文句を言っていますが。

 具体的には、ジョセフ・ロビンソン監察官の同行者で、偉そうなおじさん。

 さっきまではずっと、後ろでウンウンと頷いているだけでしたが、いきなり偉そうなことを言い始めましたよ。


「では質問します。戦術核を、現代の科学力を駆使して拳銃の弾丸程度の大きさに出来ますか? しかも、大型トラック一台だけを破壊できるようにできますか? そういうことです」


 淡々と説明すると、おじさんはグヌヌと顔を真っ赤にしてどこかへ立ち去っていきました。

 まったく、素人は黙っとれ……ですよ。


「準備完了。では、これより迷宮に突入し、要救助者の救助および魔蟲の殲滅を開始する。突入!!」


――プシュッ

 まずはあいさつ代わりのスタングレネード。

 それを結界の外から中へと放り込むと同時に、私は結界強度を上昇。

 内部では閃光と爆音が響いたと思いますが、第一層最奥までは届かないでしょう……きっと。

 そして結界強度を元に戻すと。入り口から数十メートルに渡って魔蟲が大量に散乱しています。

 まだ足をヒクヒクとしていることから、生きてはいるのでしょう、ええ。


「各個、魔蟲の殲滅を開始っ」


 一斉に迷宮に飛び込んでいく魔導編隊第一分隊。

 そして各々が闘気による攻撃を開始し、地面に転がっている魔蟲のとどめを刺していきます。

 

「それでは、私は奥のほうを……七織の魔導師が誓願します。我が前に三織の雷竜を遣わせたまえ……我はその代償に、魔力六千五百五十を献上します……紫電撃竜ライトニングドレイクっっっっ」


 私の周囲に6つの雷雲を形成。

 そしてそこから6本の稲妻を発します。

 それは瞬く間に6匹の竜の姿を形成すると、一直線に迷宮の奥へと飛んでいきます。

 そして目についた魔蟲に向かって突進していくと、そのまま対象物を一瞬で焼き尽くし、さらに奥へと飛来していきます。


「……なあ、如月3曹。最初からその術式を唱えて居ればよかったんじゃねーのか?」

「大越3曹のいうことはごもっともですけれど、これって半端じゃなく魔力を使いますからね。それに発動までのタイムラグが若干あるので、こうして魔蟲が動けなくなっていないと詠唱中に襲われるのですよ。という事で、中間地点までは道を広げました、このままいけます」

「りょ」


 魔蟲に止めを刺しつつ、私達は先に進みます。

 最後方の3名が魔蟲から転がり落ちる魔石を回収、❘殿しんがりは再び魔蟲が発生しないか周囲を警戒しています。

 そして私たちはどうにか第一層最奥の大空洞手前までやってきました。

 ええ、しっかりとワサワサしていますよ、巨大な蜘蛛が。

 しかも、私たちが空洞にやって来たのを察知してか、あちこちの蜘蛛の巣の上で、こちらを警戒しています。

 そして蜘蛛の巣や洞窟壁面には巨大な繭。

 囚われたフランス陸軍の皆さんが、あの中に生きたまま閉じ込められているのでしょう。


「構え……」


 一ノ瀬2曹の言葉で、全員が銃を構えます。

 89式5.56mm小銃、その銃口が一斉に蜘蛛に向けられた直後。


「撃てっっ」


――Brooooooooooooooooooooooooooooooom

 私を除く全員が一斉に蜘蛛に向かって射撃開始。

 ええ、30発装填されているマガジンが瞬時に空になり、さらに交換した後も射撃を続けます。

  ここまではフランス陸軍も行っていたのでしょう。

 ですが、彼らと私たちの違い、それはやはり闘気。

 マガジンごと闘気を込められた5.56x45mm NATO弾は、蜘蛛の体表面に広がる魔力膜を一撃で貫通し、その体内めがけて次々と突き刺さり、そして貫通していきます。

 そして三つ目の弾倉が空になり、『撃ち方、やめ』の掛け声がかかった時。

 すでに蜘蛛は微塵に砕け散り、地面に大量に降り注がれていました。


「観測いきます、七織の魔導師が誓願します。我が目に三織の魔力膜を与えたまえ……我はその代償に、魔力七百五十を献上します……探知の魔眼サーチ・アイっ」


――シュンッ

 魔力の込められた瞳で、空洞全域を確認。

 はい、蜘蛛は全て殲滅しました、繭の中に人たちからも生命反応を確認していますよ……と。


「敵・殲滅完了。私の指示する繭については、急ぎナイフで繭を切り裂き、中の兵士を回収して下さい。まだ息がありますので」

「りょ」


 一つ一つチェックして、無事生き残っている人たちの入っている繭を指示します。

 全体の2/3、17名は生きていますし、無事です。

 残りの1/3のうち、4名はすでに亡くなっていますが、残りの4名は生きてはいます。

 ただし、体内に蜘蛛の卵が生みつけられています、いわゆる寄生状態というやつです。

 急ぎ処置しなくてはなりません。


「如月3曹の指示のあった者から救出を開始。そっちはどうにかできるのか?」

「一ノ瀬2曹、私単独では不可能です。寄生している卵は人間の神経節に向かって糸状の寄生腺を伸ばしていますので、ヨハンナの術式で患部を取り除かなくてはなりません……私が緊急で行うと、最悪は……死にます」

「了解。大越3曹、病院のヨハンナ・イオニスさんに通信、大至急、ここに来てもらえ……如月3曹、繭から外に出すのは大丈夫か?」

「はい。私が繭を切開しますので、そこから救出してください」


 ここが正念場。

 アイテムボックスからナックルガード付きサバイバルナイフを取り出し、その刃部分に魔力を流します。

 それでゆっくりと繭を切り開きます。

 ええ、寄生している蜘蛛型魔蟲の卵が、危険を感じで暴走しかねません。

 だからゆっくりと切り開いてからは、そっと卵のある位置に向かって『麻痺の魔力』を流して一時的にな卵を仮死状態にする必要があります。


「七織の魔導師が誓願します。我が手の前に三織の麻痺波動を遣わせたまえ……我はその代償に、魔力五百五十を献上します……麻痺掌スタン・ウエーブっ」


――バジッ

 うん、手応えあり。

 この術式は非常にデリケートでして、迂闊に使うと対象者の心臓すら止めかねません。

 だから一人一人の魔力波長を感じ取り、そして的確な量をぶつけなくてはなりません。

 同じことを残り三人に行った後は、亡くなった四人の遺体を回収。

 幸いなことに卵が活性化する前に亡くなったようで、蜘蛛の卵も死んでいます。

 こうして突入から二時間後には、第一層の制圧は無事に完了。

 私たちも疲労困憊の中、迷宮を後にしました……。


 ふう、これで一層だというのですから、シャレになっていませんよ。

 神経の減り具合と疲労度については、新宿大空洞の倍以上はありますよ、ええ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

エアボーンウイッチ~異世界帰りの魔導師は第一空挺団に所属しました~ 呑兵衛和尚 @kjoeemon

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ