Dark Enough to See the Stars(ようやく、折れてくれましたか)
――コンピエーニュ迷宮外・仮設ベースキャンプ
私達第1空挺団魔導編隊が医療活動に従事していた時。
フランス陸軍は迷宮踏破の為、再び作戦活動を開始。
その24時間後に、突入部隊が全滅したという報告が私達の元にも届きました。
ですが、現状の『日本国陸上自衛隊』の活動内容は、伝染病の治療および防疫対策に関するもの。
全滅したという突入部隊の生存者確認も、ダンジョンスタンピードの制圧についても、指示は出ていません。
フランス政府から日本国外務省を通じての支援要請が届けば、私達も堂々と大手を振って迷宮へと向かう事が出来るのですが、未だ支援要請は無し。
その代わり、迷宮内部の詳細な情報を調査して欲しいという連絡はあったようですので、私と有働3佐、鷹尾2曹、大越3曹はフランス陸軍の仮説ベースキャンプへとやっていきました。
『ご苦労様です。今回は迷宮内にて全滅した我が軍の兵士たちの状況、生存者がいる場合はその保護、そして内部調査をお願いしたく、連絡させていただきました』
『我が軍としては、可能ならば遺体の回収もお願いしたいのだが、それは可能かね?』
ご存じ、フランス陸軍より派遣されて来たジョセフ・ロビンソン監察官とフランス陸軍士官のジョルジュ・マルソー少佐が私たちを出迎えてくれました。
内部状況の確認についてはマジック・アイを飛ばすだけなので問題はなし。
その際に兵士たちの遺体を発見した場合は、直接回収に向かう必要がありますが、結界の外から見た感じでも、その遺体は既に消滅していると思われます。
迷宮内部で死亡事故が発生した場合、大抵は【迷宮の掃除屋】と呼ばれているスライムによって食い尽くされているか、迷宮自体が吸収するかのどちらかのパターンが多いのですが、問題なのは、ここが昆虫発生型であるということ。
「遺体についてですが、魔蟲により食い尽くされていなければ回収は可能かと思います。ただし、最悪のケースもあり得ますので、その際は遺体は寄生している魔蟲ごと焼却しますので」
『寄生している魔蟲……ということは』
「はい。死体に卵を埋めつけ、繭の中に取り込むタイプの魔蟲も存在します」
『如月3曹の判断で構わない』
「ハッ!」
ということで、さっそく作戦開始ですが。
私は迷宮入り口結界前でマジック・アイを発動して、それを飛ばすだけ。
その間、不用心になってしまう私を護衛するのが鷹尾2曹と大越3曹の二人です。
有働3佐は後方でのバックアップ、ベースキャンプで待機しつつ、その場に残っているフランス陸軍の隊員たちと今後の活動についての協議を始めるとか。
「それじゃあ、かなり気乗りはしませんがいっきますよぉ……」
「気乗りしないのかよ」
「するわけないでしょうが、何が悲しくて、こんな蟲だらけの迷宮の中をぐるぐると見渡しに行かないとならないのですか、大越3曹、私の代わりに突撃して貰っていいですか?」
「うへぇ……勘弁してくれよ」
そういうと思っていましたよ、ということで、まずはマジック・アイの発動から。
「織の魔導師が誓願します。我が右目に仮初めの身体を与え給え……我はその代償に、魔力360を献上します。マジック・アイ発動」
――ヒュゥゥゥッ
私が詠唱を行った直後。目の前にピンポン玉大の眼球が浮かび上がります。
ご存じ、ドローンのように遠くの場所を見渡すための術式です。
本当、救助活動では大変重宝していますよ。これ専用の魔導具を作って、部隊に貸し出したいレベルですよ。
「おお、見慣れた目玉だなぁ」
「大越3曹、あまり無駄話はしない方がいい。どうやら如月3曹の魔力を感じて、結界の間向こうの魔蟲がにわかに活気づいているようだからな」
鷹尾2曹がグイッと顎を動かして結界を見るように促しています。
そして私のマジック・アイと大越3曹が結界入り口を見た瞬間。
「うをっぶ……了解です」
「あふん……気持ち悪いかも……と、如月3曹、偵察に向かいます」
――ヒュゥゥゥン
結界を越えて内部の確認。
相も変わらず、壁中に魔蟲の群れが広がっていますけれど、ちょっと厄介なタイプまで発生しています。
形状はイソギンチャク型、ウネウネと蠢く触腕を持ち、岩肌に密着している無脊椎型魔蟲……魔蟲かなぁ。あいつの分類って、仮称イソギンチャクくんで終わらせていたからなぁ。
そんなのがあちこちに発生しているのと第一層奥の方、大空洞には蜘蛛の巣が広がっています。
そして床や壁、天井などのあちこちに長さ2メートルほどの繭が無数に張り付いています。
ええ、繭の中身は人間でしょう。
そして蜘蛛の巣のあたりを徘徊している大型肉食蜘蛛の魔蟲。
じつに厄介ですねぇ。
「ふう。現状の報告をしたいので、有働3佐とマルソー少佐を呼んできていただけますか?」
「了」
大越3曹がベースキャンプへ。
そして1分も経たないうちに有働3佐とのマルソー少佐、そしてロビンソン監察官がやってきました。
「如月3曹、報告を頼む」
「はっ。現時点での生存者は不明、ただし生存している可能性のある痕跡を確認。数は25、全て蜘蛛型魔蟲の作り出した繭にからめとられています。第一層の魔蟲の活性化は第一段階を終えて、間もなく第二段階へと移行するかと」
「第一段階と第二段階の意味は?」
第一段階は、ただやみくもに魔蟲が増えること。
第二段階は、発生した魔蟲が互いに捕食をはじめ、弱いものが淘汰されていくこと。
その証拠が、イソギンチャク型魔蟲の発生と、大型蜘蛛魔蟲の出現です。
すでに数を増やすべく、獲物を繭に取り込んでいる事からその段階かと。
「……ということです。今ならまだ、生存者の保護を行うことが出来ますが、最悪のケースも考えられますので。フランス軍の判断をお願いします」
現状、私が入り口に立ち、そこから大規模火炎系術式を唱えることで、大空洞に棲息する大型蜘蛛魔蟲まで焼き尽くすことは可能です。ただし、繭も全て燃やしてしまうため万が一にも『五体満足な生存者』がいた場合は、彼らも焼却してしまいます。
なお、魔導編隊第一分隊ならば、第一層を制圧しつつ生存者の保護も可能でしょう。
その場合は医療補助・護衛を担当している隊員にも来てもらわなくてはなれません。
本当に、国を挟んでの依頼というのが、これほどまでに面倒とは思っていませんでしたよ。
また本部で検討とかいうことになるのでしょうけれど……。
『有働3佐、第一層内部に潜む魔蟲の殲滅と生存者の確保をお願いしたい』
マルソー少佐が有働3佐にそう話しています。
うん、この人は有能です、現場の判断が非常に優れています。
「了解しました。魔導編隊第一分隊は、
大空洞に存在する生存者の確保を開始する。大越3曹、病院の仮説ベースキャンプに連絡、至急動ける隊員はこちらに向かうようにと」
「了解です」
大越3曹が無線で連絡を開始。
これでようやく、私も本気で行くことが出来ます。
「如月弥生3曹、魔導装備に切り替えます」
「了解。生存者救出の際は、如月3曹が鑑定を頼む。それで生存者であるのなら救助し、そうで無い場合は……」
『その場で焼却して構いません。ただ、身分証だけは回収をお願いします』
「了解です」
フランスでは、火葬はある程度は容認されています。
これは、火葬がカトリックの教義に違反していないという宣誓が、1963年の第2バチカン公会議で行われたため。
近年は、火葬された灰を自宅の暖炉や部屋の祭壇に祀るということも行われているとか。
だからこその、マルソー少佐の決断なのでしょう。
そして大越3曹が無線で連絡を行った30分後、魔導編隊第一分隊は迷宮入り口前に整列。
ヨハンナの警備担当の二名を除く闘気修練者が集まっています。
さあ、思いっきり派手にいきましょうか!!
ええ、夜魔キスリーラの姿はありませんでしたので、こちらとしても全力で行かせてもらいますよ。
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