金谷さとる

おくりもの

 はじめたバイトはふたつ。

『ワタリ回廊』での朝の搬入と父が援助を受けている事業所の支部での雑務援助。

 両方とも縁故雇用であるので下手なことはできないなと感じている。

「助かりますが、重い荷物が多いですから腰には、腰には気をつけるんですよ? アレは若いとかあんまり関係な……、若いからこそ癖づくと後々響きますからね」

 と『ワタリ回廊』のオーナーが頷きながら言い聞かせてきた。

 オーナー、ギックリ腰でも持っているんだろうか?

『ワタリ回廊』のオープンは昼近くなので荷物を搬入し、店内に配置、掃除をしておく仕事だ。

 おれが受取った商品をスキャンしてオーナーが事務所で内容確認している。

 アテンダントと呼ばれる栞が商品の本にまじっていることもあるので元に戻すことも仕事だ。

 ……勝手に移動してないか? これ。

 掃除は読書室と呼ばれる個室やレンタルスペースも含まれるので意外に範囲が広い。ただ、あまり汚れてはいないので、おれを雇用する必要はあったのかと尋ねれば「その時間を睡眠に充てさせて頂いていますよ」と返ってきた。

「困ったことがあれば遠慮なく声をかけてくださいね」

 寝てるのに!?

 オープン前にはオーナーが出てくるか、他のバイトの人が来るかでおれの業務は終了昼からはいくつか取っている資格教室へ向かう。時間がある時はオーナーが引き取った猫の世話をさせてもらったりもする。

 資格教室帰りに『ワタリ回廊』に寄ればネオンが制服で待っていたりすることもある。

「タイ君!」

「学校お疲れ、ネオン」

「うん! 塾までのおやつ時間付き合って!」

 ネオンの住む商店街方面とこの辺りはバス数駅。雑居ビルが多く駅近いので塾も教室も多い。暗くなっても学生の姿はなかなか絶えない。

「塾、終わったら携帯鳴らして。送るから」

 お兄さんやご両親のどちらかが迎えに来るかもだけどそうなら言うだろ。

「うん。そのつもり。お兄ちゃんもそうしろって」

 ……。

 おにーさん、もう少しぃ!

「いっそ、押し倒せばいい? ってお兄ちゃんに聞いたらお母さんが受験終わるまではやめときなさいって」

 おかーさん、それダメなやつぅ!

「タイ君が可哀想だからやめといたげたらとかってマユは言うし」

 妹ちゃんグッジョブ!

「なんでマユがタイ君をタイ君って呼ぶのよ。ね!」

「ネオンがタイ君って呼ぶからだと思うよ?」

 ポテトをバクバク食べながら不貞腐れてるネオンは可愛いと思う。

「タイ君」

「ん?」

「浮気はしてないよね?」

「犬猫鳥は対象外だよね?」

「人間限定」

「なら問題ないよ」

 ふへっと解ける表情がかわいい。

「よーし、頑張ってくるぞー!」

 ネオンは気合いを入れてレモネードを一気飲みし、軽くこめかみを叩いている。うん、冷たかったんだよね。

「あ。タイ君」

「ん?」

 ごそりと鞄から小さな箱を引っ張り出す。ちょっと端がへしゃげている。

「預かって」

 は?

「この箱預かって。タイ君が持ってて。開けちゃダメよ。じゃあいってきます」

 ぶんとおおきく手を振って塾に向かうネオンを見送る。

 開けるなと言われた掌に乗る小さな箱は『ワタリ回廊』の包装紙。

「え? どんな爆弾?」

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