転売ヤーは撲滅しよう【KAC20243・箱】

カイ.智水

転売ヤーは撲滅しよう

 ライブハウスを訪れると、すでに箱の中からはリハーサルの音が漏れていた。

 十八時からロックバンド・ホワイトナイトのライブが始まるのだ。


「それにしても、よくこの公演のチケットが手に入ったよね。拓馬は日頃の行いがいいのかな」

 紀香が拓馬に話しかけた。


 バンドの人気に反して箱が狭いため、チケットの競争率はきわめて高かったと噂されている。

 チケットの予約が秒殺で終わり、直後から転売ヤーがチケットをフリマサイトで出品し始めた。


 もちろん転売ヤーからチケットを買うファンが悪い。

 誰も転売チケットを買わなければ、転売ヤーは大損を食らって自滅するというのに。転売チケットを買うから転売ヤーはさらに希少チケットの争奪戦に入ってくるのである。


「イメージトレーニングの成果だな」

「イメージトレーニングって。どうやってチケットを押さえる練習なんてできるのよ」

 事もなげに語った拓馬に、紀香は軽くツッコミを入れた。


 それにしても転売ヤーはどのようにして秒殺チケットを手に入れているのだろうか。よほど太いバックボーンを持つプロバイダを選んでいるとでもいうのか。

 インターネットは仮に速度が出ていても、プロバイダ同士を繋ぐ回線が細いとWebサイトを表示させることすらおぼつかなくなる。

 そのために、インターネット回線はバックボーンの太いプロバイダが有利になるのだ。転売ヤーはおそらくそれを熟知しているのだろう。


 もし大手プロバイダを使っていないとなれば、どのようにして狭い箱のチケットをあれだけ手に入れられるのか。

 考えたくはないが、最初からチケットを入手せずに出品している可能性すらある。

 つまり転売詐欺だ。


「私もチケットがとれないか、スマホで挑戦したんだけどなあ」

「転売ヤーがいなければ、もう少し買いやすかったと思うんだけどね」

「転売ヤー、最低ね。そんな日銭の稼ぎ方で後ろめたさを感じないなんて」


 転売で稼ぐ行為は法律でも禁止されているらしい。それでも減らないのは、それだけうまみがあるからだろう。


「そういえばサイトで、転売が確認されたチケットは無効になる、って注意書きがあったな」

 拓馬は持っているスマートフォンでファンサイトを表示させた。

「ほら、ここに書いてある」


「どうやって転売されたとわかるのかしら」

「なんでもチケットを特定する文字列や図形が個別に印刷されているらしいって聞いたことがある。だからフリマサイトでチケットの画像を上げていれば、運営が片っ端から転売チケットの認定ができるんだってさ」


 まあバンドの人気に箱があっていないから、競争率は高くなるんだよな。

 それが転売ヤーを生むわけだから、ファンであれば誰しもできるだけ大きな箱でライブしてほしいはずだ。


 でも興行的に、最低収容人数をクリアできないと赤字を抱えることになるから、ファンから不満は出ても、確実に完売できる大きさの箱にせざるをえないのだろう。

 大手芸能事務所でもなければ、一か八かのバクチは打てないのである。


 ふたりでチケットを持って入場待機列に並んでいると、前方からチケット無効を告げるスタッフの声が聞こえてきた。

 チケットを持っている人は憤慨しているが、決まりごとだから致し方ない。

 まあ稀に正規のチケットを持っていても転売と認定される可能性もあるのだそうだ。だからあの人が転売ヤーから買ったのかまでは、僕たちにはわからない。


 やはり転売ヤーを撲滅しないかぎり、安心してライブは楽しめないな。



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