こわい部屋
夏生 夕
第1話
気付いた時にはここから動けなくなっていた。
どうやら地縛霊というやつらしい。
ここはかつて私が住んでいた部屋だとだんだん思い出した。成仏が出来ていないならば、未練があるのだろう。
けどそのお陰でこの出会いがあったと思えば悪くない。
すごい好みの顔してるな…。
今日は内見だと、おじさんがある若者を連れてきた。いや勿論『お邪魔します!』とか挨拶された訳じゃない。しかし私のような、異質なものがいるかもくらいは気付かれているはず。
以前まで住んでいた人は、引っ越してからどんどんやつれていった。突然怯えだしたり夜中に飛び起きたりと見ているこっちがかわいそうになるくらいだった。ごめん、ほんとわざとではないんだ。
私がこの部屋で死んだのなら事故物件ということになるが、そんな前住人の様子から「ホンモノ」として扱われている。
そこを内見なんて私ならごめんだが、安いし、そういうこともあるんだろう。変わった人が来たなと思ったらこれ、この顔よ。20代前半くらいだろうか。
え、住んでほしい。
「陽当たりがとてもいいんですね。壁もフローリングも綺麗だなぁ。
あ、バスタブ大きい。」
そうでしょう!
腰が引けているおじさんより私の方がよっぽど不動産屋のような返事で推していると、
なんだか彼と目が合った気がした。
「あ、あの先程ご説明させて頂いたように…」
「あぁ、『なにかいる』って?」
彼は私から目を逸らさない。それどころか近付いてきた。…見えてんの?
「大丈夫です。」
私の前でピタリと止まり、笑顔でそう言った。何故か背筋が凍る。
『大丈夫だよ。』
前にもそう言われた気がした。いや、言われた。
私も目が逸らせないでいると、バチッと電流が走るような衝撃があった。
(…やっと見つけた。あれからずっとここにいたんだね…)
話していない彼の声が聞こえる。
途端にノイズ混じりの記憶が駆け巡った。そうだ、
怖くないからね、と微笑み私にナイフを突き立てた。こいつが私を、
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