現実逃避

墾田永年社会不適合法

現実から離れて

「...................................ん?どこだここは...?」


お城の一室に見えるほど綺麗な部屋。

絵画に金装飾の入った椅子。

俺は椅子に座らされていて、目の前には豪華絢爛な食事が広がっている。


「なんだこれ...うまそうだな。」


「おめざめになられましたか」

目の前の食事に手を伸ばした瞬間執事のような格好をした男が後ろから現れた。


「誰だ?」


男は一瞬首を傾げこう答えた。


「ふふ、私は貴方のファンですよ。いつも見ております。貴方の絵画、大好きですよ。」


「どうゆうことだ?なぜそんなことを知ってる...?」


「貴方の絵、とても魅力的です。世界の醜さがよく表現されている...それだけでなく、ほんの僅かな美しさも」


「嘘だな。俺の絵はいつだって売れ残ってた。誰も見ちゃいねぇよ」


「そうですね。いつも売れ残っていましたね。」


「それに、お前が俺の絵に価値を感じたなら買うはずだろ。でも買わなかった、それは魅力を感じなかったってことだろ。」


「私は現に干渉ができないので購入が不可能なのです。それに売れなければ絵に価値がないなんてことはありません。どんな理由であれ作り上げた創作物には必ず価値が宿ります。誰かが歩んできた今までの足跡、思考、価値観、そして願い。」


「綺麗事だな。」


「ええ、綺麗事です。」


「あと、現に干渉できないってお前何者なんだ」


「さっき言った通りです。貴方のファンですよ。」


「まぁいい。なんで俺を連れてきたんだ。」


「貴方が苦しそうな顔で絵を描いていたからですよ。昔はあんなに楽しそうだったじゃないですか。」


「ああ、もう絵を描くのが痛くてな。色の使い方だって、忘れてしまった。」


「創作の主な原動力は現実逃避です。現実の苦しみを創作にぶつけるのです。貴方は現実と創作、どちらでも苦しんでいる。楽しみましょう。貴方の絵は貴方が気づいてないだけで誰かに見られ勇気を与えている。」


「そうか、世辞でも嬉しいよ。だがもう絵は描かない。そろそろ引き際だろう。」


「そうですか、残念です。では食事を召し上がりください。これは貴方の絵へのほんの感謝の気持ちです。」


「いや、飯は結構だ。お前の言葉で腹一杯だよ。」


「ふふ、そうですか。それではお帰りになられますか?」


「そうだな。もう帰らせてくれ。」


「それでは目の前のワインを一杯お飲みください。」


「ああ。」


ワインを一杯、口に含んだ。

酸味が強く目が覚めるような赤いワインの味が口の中に広がった。

飲み込む際一瞬目を閉じた。

目を開けるといつものアトリエに座っていた。

手には真っ赤な絵の具の広がったパレットがあった。


「もう一つだけ描いてみるか...」


赤い滝が流れ真っ赤な空を黒い雲が流れる。

ピンク色の草が風に靡く。


「題名は...現実逃避かな...。」









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現実逃避 墾田永年社会不適合法 @gyakusetu444

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