第2話 狐が通る
「なぁ旅途も行くだろ?」
「どこに?」
「夏祭り!」
「あぁ」
そう俺は何処か知らない世界に来て数年、小学生やってます。
毎年やってる夏祭り、神社が近くにあって鳥居を潜った先に屋台が並び、夜には花火が打ち上がる。
「しょうがねぇなぁ一緒に行ってやるよ」
「上から目線やめろってww」
「一緒に行くの嬉しいくせに」
「まぁ嬉しいよ、じゃあ夕方お前ん家行くから」
「分かった」
「旅途ー!行こーぜ!」
「遊矢の奴…まぁいいか、じゃあ行って来ます」
「「行ってらっしゃい」」
「遊矢、はしゃぎ過ぎ」
「ごめんって、でもしょうがないだろ?旅途との夏祭りホントに楽しみなんだよ」
「まだ始まってもないのに、あ…最後の鳥居」
階段を登る途中にも鳥居はあったがそれよりも少し大きい鳥居を遊矢と一緒に通り抜ける。
すると視界へ一気に広がる灯火。屋台の上を飾り、夕方のほのかに暮れていく空を明るく灯す。
遊矢と少し歩きどんな屋台が出ているのかを見る。人1人通れる道の広さはあるが大人達が前の景色を隠す、大きな壁の様でいつも人通りが少なく開けている道よりは先が見えずらい。
ふと、横を通った屋台が目に映る。
「狐の面…」
それは狐の面だけを売っている屋台だった。白と黒の狐の面に様々に描かれた模様は1つとして同じものが無く、飾られた狐の面は一目見ただけでも丁寧に作られているのが分かる。
「旅途?あ、狐のお面だ」
「おや坊や達、寄ってくかい?」
「うん、おすすめある?」
「えっ買ってくの?」
「こういうのは買ってこーぜ?思い出だよ思い出」
「…まぁそうだな」
「おすすめありますか?」
「んー!そうだなぁ髪が茶色で遊び心くすぐられる坊やには、この白に朱色の模様が入っている面をやろう。こやつは遊び好きでいて、風のように駆け抜けて行くのが得意なんだ」
「そして黒髪の知性が覗く瞳をしている坊やには、黒に紺色の模様が入っている面はどうだろう。ゆらゆらと悠々不敵に揺れる尾は自分の考えが見透かされることが無く、計算しつくされた歩は他の者の追従を許さず1歩先を歩続けるんだ」
「へぇ、かっこいいじゃん!」
「凄いね…1つのお面にそれぞれ性格があるんだ」
「お兄さんありがと、いくら払えばいいの?」
「ん、あぁ105円な」
「はい」
「これでいい?」
「はい丁度、そうだ坊や達、俺たちは縁があったから出逢えたんだ。そういう縁は大切にしろよ?じゃ、お前らもお祭り楽しめよー」
「はーい」
「お兄さんも」
「さてと、じゃあ付けようぜ」
「あぁ…でもこの狐の面、紐がついて無くないか?」
「確かに」
俺も遊矢も不思議に思うが…俺たちは何故だか分かる。そして、この狐たちを顔へと近ずけていく。
そっと手を離しても面が顔から落ちることは無く、なんならお面をしているはずなのに前がハッキリと見える。
「た、旅途が…狐になってる?!」
「あ?何それ、って…は?」
遊矢は指をこちらへ向けてワナワナと震え、瞳は獣の様に瞳孔がキュッと細くなり驚いているのが分かる。また頭には遊矢と髪色と同じ色の狐の様に尖った耳が生えている。そしてよく見ると筆の様に纏まっているふさふさな尾を自分の足元で尾の先だけを器用にゆらゆらと遊矢は揺らしている。
そして…もしかして、と思い手を頭の上へ伸ばす。
「狐の耳がある…」
尾を自分の方へ上げると俺も髪色と同じ黒く長いふさふさとした尾が見える。
「俺の方が尾長い?」
「はぁー?!じゃあ俺の方が狐の耳高いしー!」
と言ってピーンと耳を立てる遊矢。俺はあまり立てる気も無いのでゆるっと立てる。
「ほらな」
「はいはい」
それよりもこれどうしよう、と考えていると…
「まっいいや、屋台回ろうぜ!」
「え…?あっ…ちょ、はぁー…マジかよ」
俺たちは人の波の隙間を縫う様に駆け抜けて行く。尾も俺たちの後を追うように揺らぎ、ゆらゆら…風の流れに逆らいながら今、タソガレドキが終わる。
「ははっ…凄っ」
「なっ!」
いつもよりも1歩先へと足が自然と進んで行く。俺たちが避けてるんじゃなくて周りが避けてるみたいだ…
階段に俺たちは腰を下ろす。…もう夕方は降りてしまい夜の幕が上がり始めている。
腕いっぱいに抱えたご馳走たちも階段の傍へ広げる。
オマケしてくれて少し量が多くなった焼きそば、林檎飴を切り紙コップに入った林檎飴、氷と水のプールの中にあったからか透明なビー玉が中に入っている瓶に沢山の水滴があるサイダー、その他射的の景品で取ったお菓子たち。
「大漁大漁」
「だな!てゆうか、やっぱり旅途の射的ズルいよなー」
「ん?あぁ、ああいうのは机に触ってたらいいんだよ」
「wwまぁそうなんだけどさ」
そう俺は机に座って最大限まで腕を伸ばし的へ近ずけることで的が倒れやすくなる様にしていた。大学生の時とかは良く友達と大学の近くの祭りを荒らしてたなぁ。
「さて、お腹も空いてるし食べるか!」
「そうだな」
遊矢の耳がピコピコと動き、瞳孔がキラリと輝き、尾がこれでもかと揺れるのはちょっと面白い。
狐のお面を頭の方へズラし手を合わせる。
「いただきます」「いただきまーす」
「上手っ」
「あっソース濃い、まぁこれはこれで上手い」
「林檎飴って棒に刺さってるもんだと思ってた」
「まぁこっちの方が食べやすいし良いんじゃね?」
「うわっ!」
「あーあ…w走る時に振ってるから」
「もう1つあって良かったわ」
「いつ買ったんだよ、てゆうかなんであんだよ」
「次に行く前に急いで買った、お前にシュワシュワ攻撃するために」
「あっぶなw」
そうして時間を潰していると行きとは別の階段に俺たち以外の人もゆっくりと集まって来ている。俺たちは場所取りをしてから残りの時間を潰すつもりだったが、他の人は以外とそういう考えの人はいなかったのか花火が上がる時間が近ずくにつれて段々と人が集まってきた。
「あ、花火が上がり始めた」
「おー綺麗ー!」
龍がとぐろを巻きながら真っ直ぐ体を伸ばし花火の火種を空高くへと持っていく。
「でっか」
一際大きな花火が空を彩る。林檎飴に刺さっていた棒を開き落ち始めている花火と重ねると…
「手持ち花火」
「あっホントだ旅途良く思いつくなぁ次は俺もやろ」
そうして時に遊んだりしていると最後の花火に近ずいてきた。
「時間的に最後かな」
「じゃあ最後はアレな!」
「ほんとにやんの?」
「やる!」
そう言っていると花火が上がり始め、龍が細い線を残しつつ空へ上がる。
花火が夜空で咲き始める。
はぁ…仕方ない
俺は片手を横に添え
遊矢は両手で
ふるりと尾が揺れ耳が後ろの方へ回るのが分かる。
せーの…
「たーまやー!」「たまやー」
異世界と俺と放浪癖と ロネ @Gianduiachocolatemoca
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