異世界と俺と放浪癖と
ロネ
第1話 自由に憧れた
窓の外は暗い。
だけど会社の中は電気が付き俺達も仕事を進めなければならない。家に帰っても寝て直ぐ起き出勤しなきゃ行けない。じゃあ会社で寝泊まりする方が睡眠時間が取れてまだマシと思い暫く家へ帰っていない。
気絶するようにソファーで寝ているせいか体はバキバキになっている。時々肩を回したり首を曲げると骨が鳴る。まるで石になったように体が固まり、重い。
大学生から一人暮らしを始めた。自炊していたから適当に料理して食べたり、友達を呼んだりして酒を飲むのが好きだった。自転車で何処まで行けるのか気になって海まで行ったのも楽しかった。
どこで間違えたんだろう。
就職活動をして何社からか内定を貰った。その中で給料が良い所を選んだ、そしたら美味しいものが食べられたり何処か遠くへ遠出が出来るかもと考えていた。
ちゃんと給料は貰っている。だけど使える日も無いから貯まるばかり。毎日、毎日、会社で仕事。任された仕事が終わっても直ぐに次の仕事が来る。
まだ小さい頃、大人は自由だと思っていた。でも多分、本当に自由だったのは高校生とか大学生だった気がする。もうあの日々が戻ってくることは無いとは分かっているけど戻りたいなんて思う。なんだかんだ大人になっても考えることはガキとあんま変わんない。
現実逃避をしても仕事は進まないと首を振り目の前のパソコンへ目を向ける。随分と前から伸びてしまった前髪が覆い隠している。髪の隙間から明るい社内の中でも更に明るい画面と睨みつけるがピントが合わない。
あれ?と思っているとタラ…と何かが垂れている気がするので確認する。
手先に着く赤い色がやけにハッキリと見えた。
まず思ったことはあー…俺、死ぬのかなということ。
現実逃避していたからか走馬灯なんかが駆け抜けることは無く頭の中でゆっくりと流れる風景があった。ベランダから見た沈む夕日と上がり始めた月、青く広い空と海。どっちも綺麗で捨てがたくて最後に思い出せたのが風景で良かったって思った。そして…
もう無理かも…と前に倒れる体で意識が無くなっていくのが分かった。
次に目を開けた時に目の前にいたのは水で出来ていた龍だった。優しい雨が降っている中で細く綺麗な龍は目を引いた。お天気雨は狐の嫁入りって話があった気がするけどホントに神様がお祝いしてくれてたんじゃないかな…
手を伸ばすと水の龍の額が近ずき触れる。冷たいのに温かい。
「旅途ー…?」
龍は声が聞こえるとピクリと反応し、ゆるり俺から離れると空へと駆け上がって行くそこまで速い訳でも無いのにもうかなり遠くまで行ってしまった。手を更に伸ばす。もう届くことは無かった。
広く青い空を登り泳ぐもう透明で見えなくなりそうな龍の鱗が今キラキラと輝く。雨の光にも見えなくないほど小さな煌めき。
河にはニジマスみたいな魚が泳いでいる。鱗が泳ぐ時に揺れ水面に色が写っている。
「旅途」
俺のことかなと思い振り返る。
「今日はここに居たのね。そろそろお家に帰りましょ?」
「うん」
手を繋がれゆっくりと河原の土手を歩いていく。知らないことが起きたばっかりで逆に現実味が無い。
でも1つだけ言えることがある。自由ってホントに憧れる。
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