彼女の棲む、家。

うびぞお

怖い映画を観たら一緒に夜を過ごそう 番外編

 その日もいつものように、ホラー映画を見せられていた。彼女の好きなホラー映画をわたしも好きでありたい、その一念で怖かったりキモチ悪かったりするホラー映画を鑑賞しているわたしって健気だと思う。


 今日は、殺人事件の起きた家に両親と子供たちが引っ越してきて怪奇現象に襲われるというやつだ。お父さんがどんどん家の呪いでどんどんおかしくなっていく。怖いけど、まあ、マシな方かな。

 これもリメイクらしくて、彼女は昔の方がいいとボヤいている。それなら見なければいいのに。


「ねえ、こういう家系ホラーってさぁ」

 と、わたしが話し掛けると

「ラーメンみたいに言わないでくださいよ」

 彼女がほっぺたを膨らませたが、とりあえず、その不満は無視した。

「なんで登場人物は、ちゃんとじっくり内見しないのかしら?」


「ははは、それは家系ホラーの根幹を覆す質問ですねえ」

 あ、自分だって家系って言った!


「本当に怖いのは家じゃなくて。家に巣くった悪魔や怨霊が、引き込みたい人間を誘って怖がらせて、怯える魂を喰らうのが目的だから、内見では分からないんじゃないんですか」

 彼女はわたしのどうでもいい質問に真面目に回答してくれた。

「つまり家系ホラーは、ターゲットを待ち伏せして捕食する先住者を象徴するものと解釈できる」

「そんなことまで考えて観てませんけど」

 そりゃそうだ。



「そう言えば、この家の内見はあなたがしたんでしたね」

 わたしたちが同棲くらしているこの家は、わたしが彼女のために見付けた家だ。大音量でホラー映画を見ることができる家に住みたいという彼女の理想を叶えるため、わたしが何件も内見して選んだ掘り出し物で、事故物件ではないこともしっかり確認した。

「そ、愛しい人を呼び寄せるためにね」

 わたしがニヤリと笑うと、彼女も頬を染めて笑い返す。

「そして、私は、ろくに内見もしないで引越して食べられるんですか?」




 いただきます




 ★☆

 ネタにした映画「悪魔の棲む家」(2005)

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