蟲使い四天王が襲ってきたホ!
ももが特訓を始めて一週間が過ぎた頃、またしても魔界からのゲートが開く。いつもと違って休日に開いたのはたまたまなのか、それとも――。
「アリス、行くホ!」
「マジカルチェンジ! 魔法少女りりす!」
「私達も行くよ!」
「マジカルチェンジ! 魔法少女ピーチ!」
2人の魔法少女は、変身してすぐに現場へと向かう。そこで彼女達が目にしたのはカメムシのような姿をした巨大な虫だった。日本では見た事がない、いや、世界中を探して見当たらないだろう。その大きさは全長5メートルを遥かに越えていた。
ここまで来ると、虫と言うより蟲と言った方がいいのかも知れない。この巨大虫型魔物を見たピーチは思わず自分の目を疑った。
「嘘でしょ? 何あの大きさ!」
「魔界にはいるんだよ。でも、自然に出てきた訳じゃないね。これは蟲使いが操ってる」
りりすが推測しているその途中で、何かに気付いたのか、マリルがマジ顔になる。
「あいつだ……」
「マリル、知ってるの?」
「ああ、私を箱に閉じ込めたやつだよ。四天王だ。蟲使いポンポ!」
「じゃあ、私達の敵だね!」
敵の正体が分かったところで、ピーチが先行する。その行動力の早さは、りりすが彼女を止められなかったほど。肉体強化特化型だったので、その最速スピードはりりすのそれを上回っていたのだ。
「僕達も急ぐホ!」
トリに急かされて、りりすも全力でピーチを追いかける。彼女が追いついた時、既に巨大カメムシはピーチにボコボコにされた後だった。
りりすを目に止めたピーチは、手をパンパンと叩きながら少し浮かない顔をする。
「楽勝でした。でも」
「え?」
「四天王はここにはいないです。どこに……」
そう、ピーチの目的は飽くまでもマリルの宿敵の四天王ポンポ。いくら魔界の蟲を倒しても、ポンポを倒さない事には気が済まないようだ。
憤る彼女を見たりりすは、両手を腰に当ててため息を吐き出す。
「ピーチはまだ初心者なんだから、四天王と単独で戦おうなんて考えちゃダメ。あいつらの強さはマジパネーから。このあーしが保証する。一緒に戦お」
「はい! よろしくです!」
魔法少女2人が今後の作戦を話し合っていると、どこからか嫌な羽音が聞こえてきた。その音の方に2人が目をやると、そこには全長が10メートル近い巨大なトンボと、その背中に乗る半袖半ズボンの幼い少年の姿があった。実際の年齢は見た目通りかどうか分からないものの、外見上は10歳程度のように見える。
状況から言って、その少年がマリルの言う四天王のポンポなのだろう。
巨大トンボは魔法少女達に近付くとホバリングを始め、ポンポらしき少年は上空から彼女達を見下ろして首を傾げる。
「なしてオラが倒した猫がそこにいる?」
「あなたがポンポね! マリルをいじめるなんて許さない!」
「はぁ? 魔法少女ごときがオラを呼び捨てにするでねえ! この雑魚が!」
ポンポは幼い見た目で幼い声の割にかなり口が悪かった。この言い草を聞いたピーチの額に血管が浮かび上がる。当然、封じられた被害者の白猫は更にお冠だ。
「倒すよピーチ!」
「当然!」
怒りのオーラを体に纏わせたピーチは、その場で両足に力を込めて一気にジャンプ。巨大トンボより高く跳躍する。そして、最高到達地点から一気に急降下した。この時、利き足に魔力を集中させる。
「マジカルキーック!」
魔力エネルギーを込めた流星のようなピーチのキックは、直撃すれば巨大蟲を一撃で倒す事も出来るだろう。しかし、そう上手く事は運ばなかった。トンボはその大きさにも関わらず、瞬間移動の如き素早さで彼女の攻撃をサラリとかわしたのだ。
空振りしたピーチのキックは地面に激突し、半径5メートルほどの大きなクレーターを作る。
自信を持った一撃だったために、ピーチは軽く動揺する。
「嘘? 避けられた?!」
「へえ、自爆しても無傷だべか。そのキックも魔法なんだな」
地面に大きな凹みを作った魔法少女の攻撃を見て、ポンポは冷静に状況を分析する。見た目が幼くても流石は四天王。簡単には感情を動かさない。上から目線なのは変わらないままだけど。
意識がピーチに向かっている今がチャンスだとばかりに、りりすはステッキを巨大トンボに向けてかざした。
「マジファイアフルバースト!」
無数の魔炎弾がトンボに向かって飛んでいく。しかし追尾機能のないそれをトンボは針の穴を通すような精密さで全て避けきってしまう。この回避運動はもはや芸術の域に達していた。
「とんでもない精密さだホ。あれじゃあ普通に魔法を撃っても全部避けられてしまうホ」
「馬鹿め! トンボの俊敏さなめんな!」
「くっ……」
敢えて先制攻撃をさせて2人の実力を見切ったポンポは。まず上空を大きく旋回して距離を取る。そして、十分な距離を稼いだ所で無数の魔法の槍を打ち出した。その魔法はりりすのマジカルデッドレインに似ている。
この攻撃を目にしたりりすは、まだ防御魔法を使いこなせないピーチをフォローするため、彼女のいるクレーターに向かう。着地したところで即防御壁を展開した。
「アリスちゃん、有難う」
「ここではりりすでお願い。それと、このくらいよゆーだから」
その言葉の通り、魔法で作った透明な防御壁は、飛んでくる無数の槍を完璧に弾いていた。りりすはこの状況を活かしてピーチに作戦を伝える。
「ピーチ、作戦を考えたんだけど乗ってくれる?」
「当然!」
ピーチは内容を聞く前に二つ返事で了承。そこで、りりすは彼女にこっそりとこれからの役目を耳打ちした。
上空では、自慢の攻撃を完璧に弾かれたポンポが意地になって攻撃魔法を連射する。
「このっこのっこのっ! なんであの程度の防御魔法を壊せないんだべ!」
いくら四天王とは言え、魔法の連射をし続ける事は出来ない。一度に使える分の魔力を消費しつくしたら、その都度充填する必要がある。
そのタイミングを狙って、りりすはステッキをかざして閃光魔法を使った。
「マジフラッシュ!」
「うおっまぶしっ!」
強烈な光を受け、ポンポは思わず両腕で目をガードする。それを合図にピーチは飛び出した。彼が蟲に指示が出来ない隙を狙って、彼女は巨大トンボの長い腹を掴む。
そうして、一気に地上にまで引きずり落とした。
「おりゃあああ!」
「ピーチ、離さないでね!」
「勿論!」
トンボの動きを封じた所で、りりすはステッキをかざして力を込める。
「レッドインパクト!」
魔法が発動した途端、トンボの胴体に魔力の塊が瞬時に移動。その巨大な体の上半身は爆発四散した。その反動で小さなポンポは呆気なく空高く弾け飛んでいく。
「お、覚えてろーっ!」
こうして、2人目の四天王もりりす達の前に敗れ去った。勝利を確信した2人は笑顔でハイタッチ。街に平和が戻ったのだった。
「じゃ、壊したところを魔法で直そっか」
「ですね……」
その頃、魔王城では――。
「何、ポンポもやられただと?」
「では我ら2人で向かうしかないな……」
(おしまい)
魔法少女りりす! アリスの過去と蟲使い にゃべ♪ @nyabech2016
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