魔法少女りりす! アリスの過去と蟲使い

にゃべ♪

特訓をするホ!

 トリは見た目がゆるキャラの鳥のぬいぐるみのような、魔法少女のサポートファエリー。彼は苦労の末、タイムリミットギリギリでようやく自分がサポートする少女を見つける。

 しかし、彼女、天王寺アリスは元敵側の幹部だったのだ。


 四天王ココと戦っていた時に颯爽と現れた新たな仲間、魔法少女ピーチ。この時は何とかなったものの、彼女は魔法少女に成り立てで実力不足。そこで、先輩魔法少女の天王寺由香に稽古をつけてもらう事になった。

 ピーチこと木原ももは、マスコットの白猫マリスを連れてアリスの下宿先に向かう。そこではアリスと由香が待っていた。ももを見た由香はニコっと笑う。


「話は聞いたよ。じゃあ早速実力を見せてもらうね」

「は、はいっ!」


 歴代最強の元魔法少女に声をかけられ、ももは緊張する。まずは変身して自分の得意分野の技の披露から。体に魔力を流し込んでの徒手空拳だ。パンチ、キック、ジャンプ、高速移動。それらの能力は魔法少女と言うより格闘系ヒーローそのもの。

 一連の演舞を見届けた由香は、軽くうなずいて顎に指を乗せる。


「なるほどね。そっち系が得意なのは分かった、十分戦力になると思う。じゃあ今度は魔法を使ってみよっか。成り立てだから難しい事は出来なくていい、基本の4つだけ」

「えっと、まだちょっと自信が……」

「自信なんて今からつけるものだよ。さあ、やってみて。魔法少女になれたんだから素質はあるんだ。分からなかったらその都度教えるから」


 優しく諭されて、ピーチは緊張しながら両手でステッキを構える。基本魔法とは、火、水、土、風の4大元素の力を魔法で再現するもの。ピーチはそれらを頭の中に描きつつ、ステッキに念を込める。


「マジカルファイア!」


 詠唱と供にライターの最大出力程度の魔炎弾が出た。射出スピードは悪くないものの、有効攻撃範囲は1メートルがいいところだろう。当然、実践では役に立たない。残りの基礎魔法も使える事は使えたものの、やはりすぐに霧散してしまう。

 そして、まだ少ししか魔法を使っていないのに、ピーチは息を切らし呼吸も乱していた。


「基本は出来てるね。うん」

「あの、どうすればもっと使いこなせるでしょうか……」

「大丈夫。使えるんだから数をこなせばいいよ。焦んなくていい。ももちゃんはまだ成り立てなんだもの。私だって最初はそんなものだったよ。じゃあ、固有魔法は使える?」

「え?」


 聞き慣れない言葉にピーチの目は点になる。固有魔法とは、魔法少女本人だけが使える魔法の事。正確にはステッキそれぞれに備わっている固有の魔法だ。ステッキを使いこなしてその本質を理解しなければ使えないため、その名前すら知らなかったピーチではまず使えないだろう。

 ただ、ぶっつけ本番で使える魔法少女もいるので、由香は丁寧に説明してピーチに使用を促した。


「分かりました、やってみます」


 ピーチは意識を集中して、ステッキに内蔵されている魔導石との同調を試みる。しかし、当然ながら初心者の彼女には荷が重い作業だった。

 数分間ずっと集中していた彼女は、疲れた表情を浮かべながらまぶたを上げる。


「ごめんなさい。何かがあるのは分かるんですけど……」

「いや、それが分かれば十分だよ。じゃあ早速特訓を始めよっか」


 こうして、ピーチの能力を把握した由香による魔法の特訓が始まった。まずは魔法理論の学習と実践。それが済んだら個人の癖を活かした魔法出力の強化。基礎が出来ているため、ももは目を輝かせながら由香の指導にのめり込んでいく。



 その頃、アリスはマリルを連れて物陰で2人きりで話をしていた。


「もう手遅れかもだけど、あーしの事をある事ない事話さないでよね」

「え? 何の事かしら?」

「ざけんなし!」

「大丈夫、聞かれない限りペラペラとは喋んないから」


 アリスとマリルは魔界時代の旧知の仲。なので、お互いにそれぞれの事を詳しく知っている。そこで、アリスはマリルに口止めを要求したのだ。

 含みをもたせたニヤケ顔をしている白猫を見て、アリスは腕を組む。


「あんま信用出来ないんだけど」

「そこは信用なさいよ。仲間なんだからさ」

「や、その顔が」

「失礼ね! こう見えて口は堅いの! あんたが嫌がるような事を影でコソコソ言いふらしたりなんかしないから!」


 顔の事を言われたマリルは激昂。その大声に気付いたももが、2人のところまでやってきた。


「何の話をしてるんですか?」

「え? えーと。あれ? 特訓は?」

「秘密なんて嫌です、話してください」


 ももにずいっと顔を近付けられ、その圧にアリスは困惑する。マリルは傍観するだけで助け舟は出す気配もない。

 味方がいない事を悟ったアリスは両手でももの肩を押して距離を取ると、軽くため息を吐き出した。


「あーしの過去の事だよ。別に知りたくもないでしょ」

「すごく知りたいです!」

「僕も知りたいホ!」

「私も聞きたいかな」

「なんで全員集まってんの?!」


 いつの間にか全メンバーが物陰に集まっていて、いよいよ話をする流れになる。引くに引けなくなったアリスは、覚悟を決めて話し始めた。


「あーし、みんな知ってるかも知れんけど魔界で生まれたんだよね。王族でも貴族でもない、ふつーの家。庶民ってやつ。でもね、あーしは生まれながらに天才だったんだ」


 アリスいわく、魔界には庶民の中に天才が生まれると、その天才が今の魔王を倒して新しい王になると言うい伝えがあるらしい。そこで現魔王は庶民の中に天才が生まれる度に処分していた――。


「まさか、アリスもホ?」

「そだよ。両親どころか一族も根絶やし。でもあーしは天才だったから逃げ延びた。それで見た目も名前も変えて魔王軍に入ったんだ。そこが一番安全だったから」

「木を隠すには森ってやつホね」


 6歳で軍に入ったアリスは、自分を襲った暗殺部隊に所属する。そこで成果を出して頭角を現した彼女は10歳で隊長に昇格した。その頃メインで行っていた仕事が魔法少女狩り。ここで妖精界にもその名が知れ渡る事になる。

 ここまで黙って話を聞いたももは、その展開に顔を青ざめさせる。


「え? 魔法少女刈りって、もしかして……?」

「違う違う。ステッキを封印しまくってたんだよ。魔法少女はステッキが命だから」

「封印されると魔法も使えなくなるんだ……知らなかった」

「ま、そんな感じであーしはついに組織のトップ、大隊長になったんだ」


 組織のトップともなれば、魔王と個人的に会う事も出来る。そこで、アリスは魔王の首を狙った。暗殺部隊で鍛えたテクニックを総動員して復讐を試みたものの、結局は力は及ばずに返り討ちにあってしまう。


「何が庶民の中で生まれた天才が魔王を倒すだよ。あーし、それを信じて頑張ったのに結局勝てなかった……。それでこっちに逃げてきたんだよ。そんな下らない話さ。あーあ、全部話しちゃった」

「し、知らなかったホ……」


 アリスの壮絶な過去に、トリもあんぐりとくちばしを大きく開ける。同じく話を最後まで聞いてたももは、魔界生まれの同級生に疑問を投げかけた。


「じゃあ、アリスちゃんが魔法少女になったのはやっぱり復讐のため?」

「まぁいつかは追手も来るだろうしね。魔王に魔力を全て奪われたから、自衛のためにも魔法少女になるしかなかったって訳」


 事情を全て話し終えた後、アリスはギャラリー全員が涙ぐむ姿を見て軽く動揺する。


「ちょ、何みんな、そんな泣くよう話じゃないから」

「だって、一族みんな殺されたって……。悲しすぎるじゃないですか」

「そうだホ。重すぎるホ」


 周りはアリスのヘビーな過去にお通夜状態。事情を知っているはずのマリルまですすりを泣きを始めてしまい、アリスはもう流れに任せるしかなくなった。

 そんな中、時間を確認した由香がパンパンと手を叩く。


「はい。休憩おわり。ももちゃん、特訓再開だよ」

「あっ……ぐすっ……はい」


 こうして、初心者魔法少女は大先輩の指導を受け、魔法技術をぐんぐんと磨いていくのだった。

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