ホラーが苦手な友達の話

永久保セツナ

ホラーが苦手な友達の話

 私には、ホラーが苦手な友達がいる。

 どのくらいホラーが苦手なのかというと、まず動画サイトでのホラー実況が見られないのは当然として、ホラーゲームのスクリーンショットを見ただけで体調が悪くなるレベルの深刻なものだ。

 小さい頃、彼女は自分の姉に無理やりお化け屋敷に引きずり込まれたが、あまりの恐怖に屋敷の非常口から脱出したという。

 さらに、『●にも奇●な物語』のホラー回があるかどうかに関わらず、あの番組のオープニング曲を聞いた時点でもう居間に行けないそうだ。

 彼女のこの世で一番嫌いなものはゾンビで、どんなにキュートでポップな絵柄で描かれていても受け付けないらしい。

 彼女いわく、「ゾンビなんて臭い・汚い・気持ち悪いの3Kじゃん、存在する意味がわからない」と断固拒否の姿勢。

 ゾンビが臭いかどうかはわからないが、まあ腐敗した死体なので実際にいれば臭うのは間違いないだろう。

 その友達――ここでは「Kちゃん」としておこう――とは、SNSで知り合い、今では作業通話で会話する仲である。

 そんな極端にホラー耐性がない彼女だが、変なところで鈍感な一面がある。

 今日はそのエピソードを紹介しよう。


 Kちゃんは某県のマンションで家族と暮らしているらしい。

 しかし、そのマンションは近頃、ご近所トラブルがあるのだという。

 Kちゃんは通話でこう話してくれた。


「なんか、上の階の住人がドタドタ走り回ってるみたいなんだよね。うちの母親がかなり気にしてるんだけど、私は上の階に子供でもいるんじゃないの~って、そんなに気にならないけどね~」


 そう言ったそばから、彼女のマイクにバタバタとした足音のような音声が紛れ込んだ。


「え、こんな時間でも子供が走り回ってるの? 今、夜の四時だよ?」


「え~? 夜更かししてるか、早起きでもしたんじゃないの? 今の子供って夜遅くまでテレビ見てたり、生活リズムがおかしな子多いしさ~」


 Kちゃんはのんきに笑っているが、一緒に通話していた霊感のある女の子が「ちょっと待って」と張り詰めた声を上げる。


「明るくなったら、管理人さんに上の階、確認してもらったほうがいいよ。多分、上にいるの、人じゃない」


 ちなみに、私の参加している作業通話は、霊感のある子の他に、ホラーやスピリチュアルに興味のある子たちで集まることが多かった。

 Kちゃんはホラーが苦手だが、なぜか私たちの作業通話には普通に参加してくれていた。


 Kちゃんは「え~?」と半信半疑だったが、その言葉通りに、空が明るくなって管理人さんがマンションにやってきた頃に上の階を確認してもらったそうだ。


「上の階、誰も住んでないってさ」


 Kちゃんは一時間ほどで通話に戻ってきて、あっけらかんとした口調でそう報告してきた。


「え、怖いじゃん」


 私はなぜKちゃんが平然としているのかが不思議だった。


「そうだね、怖いね~。上に誰も住んでないってことは、誰か知らない人がマンションに入り込んでたか、なにかの動物でもいたのかなあ」


「いや、それも怖い話だけど……。幽霊だとか、そういうのだとは思わないの?」


 私が尋ねると、Kちゃんは「ん~」と少し考え込むような声を出した。


「私、ホラーは怖いけど、実際そういうのを見たことあるわけじゃないからさ。一番可能性としてありえるものを先に考えちゃうだけだよ。ホラーゲームとかお化け屋敷が怖いのはほら、ああいうのって人を必ず怖がらせるために設計されてるものじゃん。ああいうのは苦手だけど、実際に幽霊がいるかどうかもわからないし、遭ったときに怖いのかもわからないから」


 私たちはKちゃんの独特な持論にあっけにとられてしまった。

 こんな感じで、彼女は怖がりなくせに変なところで鈍感だったのである。

 そんなKちゃんは、今も幽霊に直接遭うことはないが、怪奇現象なのかなんなのか微妙なものに出くわすことはたびたびあるそうだ。

 そういった現象を、彼女は持ち前ののんびりしていて細かいことを気にしない性格で乗り切っているようである。


〈了〉

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