第11話  悔いのねぇ人生だった

五月十一日(今で言う六月二十日)午前三時、新政府軍は函館山の裏手をよじ登って山頂に立った。

山頂を警備していたのは新撰組蟻通勘吾を隊長とする三十人ほど。


「蟻通、敵は必ず山を登って来る。確認できたら花火をぶっ放して弁天に知らせろ。

ここで死ぬ必要はねぇからなっ。」

「分かりました、土方さん先に逝って途中で待ってますからね。新撰組に入隊してここまで付いて来ました。私は新撰組が大好きです。土方さんが大好きです。有難うございました。」

「蟻通、途中で待ってろよな。一緒に総司達のとこに行こうや。」


蟻通は怪我をした部下を逃がす為に敵に切り込んで行った。三人倒したが銃弾に倒れた。


「土方先生、先に逝って待ってます有難うございました。」


弁天岬砲台にほど近い山背泊に新政府軍が上陸して弁天岬砲台を包囲しようとしていた。

山背泊の守備を任せられていたのは新撰組隊士粕谷十郎を隊長とする三十名。

この三十人は射撃の名手揃いで一人三丁の小銃を持っている。


「粕谷、新撰組に入隊したばっかりなんだが小隊長になって山背伯の守備やってくれないか。」

「了解っす。」

「粕谷、三十人つける、そして一人三丁の小銃をなんだる。全弾命中が俺の命令だ。

百人近くは倒せる。敵の輸送船には四百程度しか乗れねぇ、半分は函館山、残り半分は弁天だ。百人倒したらしばらくは余裕が出来る。その間に町の人達を弁天台場に入れるよう魁ちゃんに言っておいた。粕谷死ぬ必要はねぇ、百人倒したら一目散で弁天に戻って来い。」

「了解っす。」


粕谷は土方との約束通り百人近くを倒した。隊士を先に弁天に下がらせて殿として銃を撃ち続けた。弾が切れて走ったが横合いから敵兵十人ほどが現れたので斬り合いになった。

粕谷は三人倒したがめった刺しされた。


「中島さん、今から一本木によってから弁天の救援に行く。短い期間だったが有意義だったよ。」

「土方さん、あんたに出会えただけでも蝦夷くんだりまで来た甲斐があった。今日中にここにも敵は押し寄せて来るだろう。艦砲射撃も始まった。潔く戦ってさわやかに死ぬつもりだよ。」

「中島さん、俺も今日あたり近藤や沖田ン所に行くような気がしてんだ。途中で待っててくれ、新撰組の奴等も待ってる。一緒に行こうや。」

「うちは人数多いぞ、みんな死ぬ気で居るからな。」

「にぎやかでいいじゃねぇか。」

「そんじゃ行ってくるわ、中島さん。」


土方は一本木関門に直行した。


「土方さん、弁天には行けそうにもないよ。」

「なんでだ、佐藤・菰田っ。」

「敵は弁天砲台を包囲して残りはこっちに向かっています。異国橋を守っていた我軍もさっき撤退してきました。」

「大森浜はどうだっ。」

「箱館山山頂から降りて来た敵兵三百が既に大森浜手前で銃撃戦をしています。今のところ何とか持ち答えていますが時間の問題です。」

「佐藤、今一本木に何人いるんだっ。」

「凡そ、五十。」

「佐藤・菰田おめぇ達に頼みがある、絶対、俺の首を薩長に渡しちゃなんねぇっ、

これは命令だっ。」

「土方さん、五稜郭まで引きましょう、五稜郭にはまだ千人は居ます。」

「俺が討たれたらおめぇ達、全員連れて五稜郭に行け。」

「佐藤、菰田、おめぇ達はまだ若い。死ぬんじゃねぇぞっ。」


薩長が発砲してきた。

土方は馬上し隊士達に檄を飛ばした。


「ここから離脱する奴は俺がぶった切るっ! 分かったかっ。」


土方が短銃を構えた瞬間、数発の銃弾が土方の胸を貫いた。

傍にいた隊士数人が倒れた土方の盾になった。


「おい、お前らっ土方さんを五稜郭にお連れしろっ、急げっ。」


土方の盾になった佐藤達は敵の銃弾をもろに受け全員斃れた。

土方は虫の息だったがまだ生きている。

近藤、沖田と日野でやんちゃしていた時のことを想いだした。

江戸から京都に向かう道中のことを思い出した。

芹沢鴨暗殺を思い出した。

清川屋郎・伊藤甲子太郎暗殺を思い出した。

池田屋事件を思い出した。

鳥羽伏見・甲陽鎮撫隊そして甲府城での戦い。

会津での戦い、そして函館。

人殺しの人生だった。

でも、悔いはねぇ。近藤勇がいてくれた。沖田総司はいつも笑っていた。

百姓が武士に挑戦したんだ。楽しい人生だった。

榎本、大鳥いやチャラ男とチャラおめぇ達なら長生きできるさ。

土方は静かに目を閉じた。



「榎本さん、いつ脱出するんですか❔。そろそろ発表して下さいよー。」

「大鳥君、みんなを集めて下さい。発表しますから。」

「おーい、みんな集まれ。」

「大鳥君、大声出すんじゃないよ。」

「みんな集まったよ。」

「榎本さんが例の計画を発表するってさ。」

「待ってました。」

「皆さん、本日午前一時、古屋君の先導で室蘭に向かいます。荷物は最小限にして下さい。」

「やったー、待ちに待っていた瞬間。」

「早く午前一時になんないかなー、午前一時なら敵も油断していますよね、絶対油断してますって。」


その時、部下がすっ飛んできた。


「榎本総裁っ、衝蜂隊隊長の古屋作左衛門が敵むの艦砲射撃の砲弾をもろに食らって

重傷です。今、湯の川に運んでいます。」

「何だって、どうして古屋君が・・・・・・・」

「なんでも部下達と宴会をしていたらしいんです。どんちゃん騒ぎだっとか。」

「あの馬鹿っ、なんでこんな時に宴会すんだよっ。」

「榎本さーん、どうすんですかー。せっかく楽しみにしていたのにー。」

「皆さん、この計画なかったことにして下さい。大鳥君、湯川に行って古屋君に毒もって殺して来てください。あんな奴殺すべきでしょう、大鳥君頼みますよ。」

「榎本さん、ちゃっちゃとやってきます。


大鳥はスキップしながら湯川に向かった。


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土方歳三はチャラ男が大嫌いだ!! 鬼龍院右仲 @can0521

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