第10話  新政府軍上陸・伊庭八郎重傷

四月九日(今で言うと五月二十日)新政府軍が乙部に上陸。

あっと言う間に江差を占領した。

四月十二日(五月二十三日)新政府軍第二陣が江差に上陸。

四月十六日(五月二十七日)第三陣が江差に上陸。


「松岡さん、敵の艦砲射撃はどうでした。」

「人見君、かなり精度が高いよ。土方さんが言ってくれなかったら徹底抗戦していただろうな。」

「さっさと江差を捨てたのは正解ですよ、松前も適当にあしらって先ず福島に行きましょう。」

「そうしよう、伊庭君決戦の場は松前じゃない。俺達は福島そして木古内。木古内で敵を食い止めようと思ってんだが。」

「松岡さん、人見さん、賛成です。十三日には土方さんの二股に敵が入ったと聞きました。」

「伊庭、土方さんは大丈夫だ滝川も付いているしな。」

「松岡さん、敵は上ノ国から木古内に向かっているんだろう、松前もグズグズしてられないぞ。」

「俺と伊庭が松前に残る。松岡さんと春日さんは先に木古内に行ってくれませんか。」

「分かった、さっさと木古内に来いよ。」


「伊庭、土方さんはすごいよな。土方さんの予想通りになっている。土方さんが言っていた部下を無暗に殺しちゃならんと。会津戦争では三千人死んだそうだ。この戦争では何人死んでいくんだろうか。」

「以前、土方さんが言ってたよ。会津が三千人死んだのなら函館は千人以上殺しちゃなんねぇと」

「千人か。」

「伊庭、松前を出よう。敵に松前をくれてやるんだ。」

「人見さん、何言ってんだよ。」

「聞いてくれ、俺達は折戸浜あたりで敵を待つんだ。一泡食わせたらそのまま木古内に走る。」

「分かったよ、一泡吹かせてやろう。」


松前城は簡単に落とされた。

堕とされたんじゃなくくれてやったんだ。

人見と伊庭は折戸浜で新政府軍を松前まで引かせ木古内に入った。


「おい、人見、伊庭戻ったか。」

「春日さん、一泡吹かせてやったよ。」

「皆来ているのか。主だった者を集めてくれないか。」

「ここにもかなりの敵が入ってきているな、近いうちに激戦になる。みんな元気そうだ。これから楽しくなるな。」

「大鳥さんが来るって聞いたけど本当か?。」

「何しに来んのさ、邪魔なだけなんだよな。無視しましょうよ。」

「大鳥のことはいい、敵は既に上ノ国方面から木古内に入っている。福島上も落とされた。出来るだけ時間稼ぎをしなきゃならん。土方さんが木古内から有川での戦いを月末まで凌いでくれって言ってた。」

「なんで月末までなんだ。」

「土方さんは二股を月末まで持ちこたえるそして滝川に預けて箱館・弁天砲台に

行くと言っていたんだ。」

「土方さんなら言ったことは絶対やり切る人だ、俺達もここを死守しようぜ。」


木古内が激戦になった。敵の艦砲射撃は凄まじい破壊力で悩まされた。


「艦砲射撃が相手じゃ手も足も出ねぇ。」

「艦砲射撃がやむまで死ぬなよっ。」

「春日さん、競争しようや。敵を何人倒すか。お前らも加われよ。」

「やる、やる、おっもしれぇ。」


艦砲射撃が収まって銃撃戦になった。

既に三十人ほど戦死している。


「小太郎っ、今から十人ほど連れてあの坂道の上に行ってくる。一人三丁の小銃を持って行けっ。小太郎すぐ戻って来るが後を頼んだぞっ。」

「伊庭、気を付けて行けよっ。おいお前らっ、援護射撃はじめっ!」

「分かった、すぐ戻る。」


伊庭は先頭を走しっていた。

坂の上に着く寸前で敵兵が現れた。伊庭の周りには遮蔽物がない。

「皆っ、伏せるんだっ、兎に角撃ちまくれっ。」


敵兵は一瞬怯んだようだが地の利は敵にある。

伊庭の部下四人が撃たれた、全員即死だった。


「皆、撃ちながら戻るんだっ、俺が援護する、行けっ!」


六人の部下は必至で坂を下りて行く。一人撃たれた。


「佐々木、俺の肩にぶら下がるんだっ。」

「隊長、俺を置いていって下さい。」

「馬鹿言ってんじゃねぇ、行くぞっ。陣地はすぐそこだ。」

「伊庭を援護しろっ、伊庭ッ頑張れあと少しだっ撃ちまくれっ。」


あと五十メートルの所で伊庭が胸のあたりを撃たれた。


「小太郎、後は頼んだぞー。」

「伊庭ー、伊庭ーしっかりするんだっ、今助けに行くっ。」

「弾除けをもって俺に付いてこいっ。」

「伊庭っもう大丈夫だ。死ぬんじゃねぇぞっ。」

「おい村上っ、五人連れて船で五稜郭に連れていってくれ、絶対助けるんだぞっいいな。」

「小太郎、任せておけ、、矢不来で会おう。死ぬなよ。」


伊庭は重傷だったが小太郎に笑顔を送って小さく手を振った。



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