【KAC20242】シアワセのおウチ

下東 良雄

シアワセのおウチ

「じゃあ、私が内見して手配しておくわね」

美月みつき、悪いな。単身赴任先の部屋探しまでさせちゃって」

「ううん、和夫かずおさんはいつも忙しいし。お仕事頑張ってね」

「おぅ! じゃあ、行ってくる」

「行ってらっしゃい」


 私は、仕事に出掛けていく夫を見送った。

 さて、来月からの単身赴任先の部屋探しをしてあげなきゃね。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「こちらの物件になりますが……」


 自宅から新幹線で一時間。

 目星をつけていたマンションに不動産屋と訪れた。


「えぇ、この物件、とても気に入ったわ。お願いしました通り……」

「は、はい。お試しでお泊りになりたいと……」

「準備もしてきたから」

「あの……事前にご説明しました通り、こちらの物件は……」

「いわくつきなのよね。ウチの夫、オカルト好きだから」

「あぁ~、そういうことでしたか。でも、本当に注意してくださいね」

「ふふふっ、じゃあ、明日の朝に契約しますので」

「承知いたしました。電気・水道・ガスは自由にご利用ください。火の扱いだけご注意を」


 私は鍵を借り受け、持ってきた寝袋を床に広げた。


「さぁて、どんなものかしらね……」


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「和夫さん、気をつけてね。荷物は送っておくから」

「全部やってもらって悪いな。離れてても愛してるよ、美月」

「ふふふっ。じゃあ、行ってらっしゃい」


 ――私は知っている。

 あの男は一年前から会社の小娘と浮気している。証拠もある。

 だから、あの物件を契約してやった。あの部屋を愛の巣にするらしいから。


 あの夜、無数の御札が屋根裏に貼ってあったので、アレは私を憎々しげに睨むことしかできなかった。


 だから朝、御札を全部剥がしてやった。

 聞いている。これまで住人が次々不審死していると。

 あなたと小娘は何日持つかしら。ふふふっ。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「もしもし、カタにハメてやったわ。これであのひとが死んでくれれば、保険金が入ってくる。これであなたと一緒に……三年も待たせてごめんね。愛してるわ、勇斗ゆうとさん」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【KAC20242】シアワセのおウチ 下東 良雄 @Helianthus

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ