第18話 俺、未来に思いを馳せる

ミルトラン謁見室内



「くっ、殺せ!」



 帝国軍のミルトラン攻略部隊総大将オズが、後ろ手縛りうつ伏せ状態で、玉座に座る俺の前に捕虜として差し出されていた。



「(く、くっころだ……)」



 思わずしょうもない思い付きに脳が支配されそうになったので、頭を切り替えるために、今目の前にいる彼がここに来るまでの経緯を改めて思い出すことにした。



 あのあと――



 ミルトラン第一騎士団は任務を成し遂げ、敵総大将のオズを見事に捕らえた。


 指揮官を守っていた側近の守備部隊は、シャンティがものの30秒足らずで制圧。


 勝ち鬨を上げ、我が軍の勝利を決定的なモノとした。


 大将を失った敵軍は戦意を失い、次々と撤退。


 正門前でイヴに負傷させられた敵兵は全員捕虜としてミルトラン城に招き入れた。


 現在ウチの回復担当が手当てを行っている。


 まさに、完全勝利。


 ミルトランは1人の犠牲者も出すことなく、自国を完璧に守り切った。


 まぁ、ミルトランが、というより3人の妹達が、と言ったほうが正しいか。



「わっ!義兄にいちゃん!リアル【くっころ】だよ!」



 謁見室には、使節団が来た時と同じメンツ、すなわちウチの幹部たちが脇を固める形で状況を見守っている。


 3人の妹+じいやは俺が座る玉座の隣にいた。



「アイル様。【くっころ】は姫騎士やヒロインに対して遣う聖なる言葉ですぞ。そのような萎びたおっさんに対して用いてよい言葉ではありませぬ。そもそも【くっころ】とは……」



 アイルの何気ない一言に対し、じいやが何故か、【くっころ】についての独自見解を述べ始めた。


 ……その議論、後にしてくれない??


 いま取り込み中なんだけど。


 まぁ、俺も一瞬その単語が頭をよぎったことはこの際、黙っておこう。



「ラストお義兄にい様。私が口を割らせましょうか?」



 イヴが俺の求めていることを察し、進言してきた。


 総大将、リーダー、総司令などなど。


 呼び名は色々あるが、オズという名の初老で眼光の鋭い彼が、このミルトラン攻略作戦における総責任者である事実は間違いない。


 とあれば、当然殺すなどというもったいないことはできない。


 情報の宝庫である彼から聞きたい情報は山のようにある。



「ありがとうイヴ。でも、その役目はじいやのほうが適任だよ」


「セイサル様が?」


「ああ。君たちは知らないかもしれないけど、じいやは元々そういう仕事をしていた男だから」



 前ミルトラン国王である父から聞いた話として、じいやが某国で諜報員兼取調官という特殊な仕事をしていたという記憶がある。


 色々あって父に拾われ、ミルトランの執事になったらしいが、その辺りの細かい経緯は記憶にない。


 ともあれ、そういう汚れ仕事に関しては確実にじいやが得意とする分野であるから、妹達の手を煩わせることはない。


 ……まぁ、直接本人に確認とってるわけじゃないから、やってくれるかどうかはわからないんだけどね。


 案外そういうのが嫌で、ウチの執事になったのかもしれないし。



「……じいや」


「ええ、ええ。わかっておりますとも、ラスト様。そういう汚れ仕事はじいやにお任せくだされ。ただ、拷門ごうもん……げふんげふん、取り調べは久しぶりですのでのぉ。力加減を間違えないとも限りませぬが……」



 普段とは違う冷ややかな笑みを浮かべたじいやの表情に、前職が嫌でこのミルトランに来たのではないということが、うっすらとわかった気がした。



「帝国に永遠の忠誠を誓ったこの心と身体。どのような仕打ちを受けようと、私が自国の内情を話すことは絶対に……えっ?じいさん、アンタまさか……」



 うつ伏せで縛り付けられていたオズは、じいやと目が合い、絶句していた。


 あれ?知り合いなの?



「地獄のセイサル・ミィ・サワー……」


「ふむ。ワシはお主の事など記憶にないが、お主はワシの事を知っておるようじゃの」



 オズがつぶやいた、おそらく昔の通り名であろうフルネームを聞き、さらに鋭い視線でオズを見下ろしだすじいや。


 地獄のって、穏やかなじゃないな。


 どんな取調官だったんだよ、じいや。



「噂には聞いていたが……」

「地獄のセイサル・ミィ・サワーだったとは……」

「取り調べにおける情報取得率99.99%と言われた、あの伝説の……」

「絶対に口を割らせる尋問術は口外厳禁の秘術中の秘術……」

「しかも取調後は何故か皆牙を抜かれ、奴隷のように服従させられたとかなんとか……」



 なんか周りを囲んでいるウチの幹部連中がざわつき始めている。


 みんな知らなかったんだな、じいやの過去は。


 聞こえてくるいくつかの話から、じいやの伝説がこんな末端の辺境国まで轟いていたということを知り、少し驚いた。


 ……なんとなく、地獄感は伝わったよ。



「それじゃあ、じいや」


「了解しましたぞ、ラスト様。おい、この狼藉者を懺悔室へ連れて行け」



 オズの両脇に立っていた兵士二人が彼の身体を強制的に起こし、半ば引きづるように強制歩行を強いらる。



「ま、待て待て!わかった!ここで話す!知っていることは全部ここで話すから!」


「もう遅いのじゃ。ほれ、行くぞい」


「ひぃぃぃ!!」



 オズの断末魔のような悲鳴とともに、彼とじいやは謁見室から消えていった。


 ……いったいどんな取調べをするんだろうな。


 ちょっと怖い気もするが、少し興味はある。


 いやいや。


 今はそれよりも、この場を早く締めて皆を休ませてあげないとな。


 実践はほぼ妹達で完結したが、気苦労やプレッシャーは半端なかったと思うから。


 祝杯を上げる準備はもう指示してある。


 夜まで時間があるから、兵士一同にはそれまでゆっくりしていてもらいたい。


 王たるもの、彼らのガス抜きを行うのも大事な仕事の一環なのだから。



「皆、今日はご苦労だった。ミルトランは見事防衛戦に勝利し、帝国の脅威は完全に消え去った。事後処理はこれにてひと段落したから、皆にはこれから夜の宴に備えてゆっくり身体を休めてもらいたい。いいな!」



『うおおおお!!ミルトラン、万歳!!』

『万歳!!』

『ラスト様!!万歳!!』



 まったく。


 帝国と戦う前は全員お通夜で焼香を上げるときみたいな顔してやがったのに……。


 手の平返しの早い奴らだ。



 でも……



 誰一人ミルトランから逃げ出さず、俺の指示を信じて任を全うしてくれたことには非常に感謝している。


 勝利は妹達の力によるところは大きいが、それでも彼らがいたことで救われた部分というのも少なからずあったと思う。


 これから先、妹達の力だけでは解決できない問題というのは必ず出てくる。


 頼れる人間は1人でも多くいたほうがいい。


 忠誠心が上がって信頼に足る人間が増えれば、俺の【覚醒回復オーバーヒール】を使える対象の幅も広がる。


 そうなれば帝国……いや、世界はすべてミルトランの足元に跪くことなる。


 

 ふふふ……



 この程度の戦い、まだ序章にすぎない。


 これから先、もっと大きな戦いが俺たちを待っている。


 まだまだ足りないのだ。


 資金、資源、戦力、能力、情報、同盟……


 悠長に少しずつ蓄えている猶予はない。


 どんな手を使ってでも、最速で国力を上げていかなければならない。



「まだ、始まったばかりだ」



 盛り上がる謁見室の空気感を感じながらも、俺はすでに未来のことを見据えていた。







「ラストお義兄にいさまぁ」


「ん?どうしたシャンティ。君も部屋でゆっくり休んで……」


「30秒」


「30秒??」


「私、30秒で片づけました!」



 ……あっ、そういえば。


 シャンティ率いる第一騎士団が敵総大将を追いつめていた時。



 その側近部隊を早く無力化したら……



「お義兄にいさまは、約束は必ず守る男ですよね?」


「えっ!?あ、いや……」



 シャンティの背中を流す約束をしたことを……



「さっ!お義兄にいさま!お風呂が私たちを呼んでいます!参りましょう!!」


「わっ!ちょっ!待って……」



 今、思い出した。



「なっ!?シャンティ姉ちゃん、義兄にいちゃん引っ張ってどこ行く気?」


「お風呂一緒に入るのっ!」


「はぁ??義兄にいちゃん、ソレ、一体どういうこと!?」


「あ、いや……」


「アイル、安心して。私が先に行って、大浴場を永久凍土に、しておくから……」


「いや、それはやめてくれないか、イヴ」


「さっ!行きましょ!お義兄にいさま!」



 俺の苦難に満ちた覇道への道は、まだまだ続く。



 完



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あとがき


いつも応援ありがとうございます。

作者の十森メメと申します。


本作は現段階で今後のプロットがまったく出来ておらず、エタる可能性が非常に高いことを考慮しまして、非常に残念ではございますが、一旦ここで完結とさせていただきます。


いい着想、アイディア、構想が浮かびましたらまた再開(および全面リニューアル)してお届けしたいと思います。


最後までお付き合いいただいた読者の皆様方には本当に感謝しております。ありがとうございました。


それでは、また!

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転生王子の俺が治癒した義妹たちを激戦区へ次々放り込んでいたら、舐めプしてた敵国が病んだ 十森メメ @takechiyo7777

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