第10話 小山君達。勇者再び

「んちわ」

「どなたか、いらっしゃいますか?」

 店の玄関が開き、声が聞こえる。


「はーい」

 返事をして出てみると、勇者君達だった。


「お久しぶりです」

 きちんと挨拶が出来るのは、弾沙恭子だんさ きょうこちゃん。

 男ども二人は、少しふてくされている。

「んちやーす」

 そんな感じで。


「どうした、そろって」

「えーとあの」

「こっちが退屈なんです。何とかしてください」

 尾川深志おがわ ふかし君が泣きそうな顔になる。


「知っていますか。人間飛び抜けると怖がられるんです」

 そう聞いて、なんだか風景が見えた。


 こいつら帰ってきて、調子に乗ってやらかしたんだな。

 百メートル三秒とか?


 小山隆史こやま たかし君が口を開く。

「向こうへ行きっぱなしは嫌なんですが、たまに戻りたくなって。何とかなりませんか?」


「あーまあ。いけるが、俺だけだと少し不安なんだよな。それと、接続は切ってしまったから前の世界。パーディディットムンヅデゥム? だったか。あそこに行けるとは限らない。それでも良いなら」

「「「お願いします」」」


「と言う事で、親から許可を取ってこいと言ってある」


 そんなことを言っていたら、親まで来やがった。

「異世界って少し憧れて」

 そんなことを言って、ヘラヘラと。


「まあ良い。行って見るか」

 空間の一部に魔力をねじ込み、それを開いていく。


 黒い穴が開く。

「すごい。亜空間収納できているよ」

「本当か? いやそうじゃ無い。別の世界っと」

 また別の所に、注ぎ込む。

 前のを思い出せ。そう願い開くと、謎の空間。


 穴の向こうは、鬱蒼とした森で、湿気が無茶苦茶高い。


 ふと、下を見ると、うぞうぞした昆虫の長いのが絡み合っているやばいところだった。

 そっ閉じをする。


「ちょっと落ち着こう」

「どうしたんですか?」

 恭子ちゃんが聞いてくる。


「いや聞かない方が良い」

 その様子に、何かを悟ったようだ。


 そうして、海だったり空だったり色々繰り返し、道があった。

 それも未舗装の。

「これが正解かな」

 俺が首を引っこ抜くと、淑子が首を突っ込む。


 黒い穴から、下半身が生えている。

 つい色々したくなるが我慢をする。


 ズボッと上半身が抜けて顔を出す。

「良いんじゃ無いかな」

「じゃあ、行ってみよう」


「探査してどうだった?」

「うーん、まあ何らか生物は住んでいるし。多分病原体も丈夫そうよ」


「行こう」

 そうして皆で、中へ入り、一応閉じておく。

 むろん魔力の紐は、繋ぎっぱなし。


 そうして行った先には、立派な城郭都市が建っていた。


 周りの畑には、少し違うが、植物が植わっている。

 穀物や、トマトのような果実もある。


「へー。これは見たことがないな」

 皆が珍しそうにキョロキョロと眺める。


 途中馬車が追い抜いていったり、人が歩いていたり。

 ただ、耳が生えている。


 角が生えている。

 しっぽまで。

「これは間違いないな」

「そうですね」

 尾川君が、ものすごく嬉しそうだ。


 しっぽが揺れるたび、それに合わせて首を振る。

 ケモナーさん発見。


「ここはベスティア王国。王都のキャトルペッドだ。町に入るなら一人銅貨三枚を出せ」

「うーん。三十円で良いのかね」

「銅貨だよねえ」

 皆が三十円ずつ出す。

 

「見たことがない硬貨だな。随分遠くから来たんだな。両替をした方が良いぞ」

「ありがとうございます」

 そう言って中へ入れた。


 小山君達は、久しぶりの風景。俺や親たちは初めての外国の町という感じだ。


 色んな匂いが混ざって匂ってくる。

「ええと、遼遠さんでしたっけ」

「はい、何でしょう?」

「あの剣と盾の看板は、ギルドでしょうか?」

「いや僕よりは、子供達に聞いた方がきっと詳しいと思います」

 なんだかお父さんの方も、童心に返ったように目がキラキラしている。


 キョロキョロして危ないな。そう思ったら、人とぶつかった。

「あっすみません」

 反射的に謝る日本人サラリーマン。だが子供達は違う。


「何かすられてない?」

「えっ。あっない。電子たばこが」

 ジャケットの内ポケットに入れていたようだ。


「ちょっと行ってくる」

 小山君と尾川君が走っていく。


 おおう。客観的に見ると早いな。


 その頃。

 すった奴は困っていた。

 上等な袋に入った不思議なもの。

「何だこりゃ」

 一つの箱に入っているのは、枯れた葉っぱのようだ。

 そしてもう一つは、金属製で穴が開いた四角いもの。


「よくわからないが、アーティファクトだろう。高く売れそうだ。いや待てよ、下手に持ち込んで、やばいものだったらどうする?」

 はっきり言って、当然だが見たことのないもの。


 もし、遺跡からの盗掘品や教会の扱うものなら、どこから入手をしたかと問い詰められて、殺されるんじゃないか? でも、そうじゃなければ、高く売れそうだし。

 いきなり胃が痛むほどの、ストレスを受ける。


 困ったスリは、一回見せるだけ、そう考えて店へ行こうと歩き始める。

 そこへ、彼らが来る。


「さっきのスリは、お前だな。命がおしけりゃ、それを返せ」

「何がだよ。これはおれんだ」

「じゃあ、なにをするものなのか、知っているよな、俺が知っているものなら、操作を間違えれば、この町くらいは吹き飛ぶものだ」

「ひっ」

 思わずスリは、変な声を出す。


 その時、握りしめたため、スイッチを長押ししてしまった。


 加熱が始まり、固着していたタールなどが気化し始める。

 鼻の良い獣人。

 握っているものに、明るい光が灯り、温度が上がってきた。

 そして匂いがする。それも、焦げた匂い。


「ひっ。何かが始まった。たっ助けてくれ」

「まだ今なら止まる。早く返せ」

 素直に返してきて、ボタンをもう一度長押しをする。


 小山君が処置をしている間に忍び寄り。

「どーん」

 獣人の耳元で、尾川君が叫ぶ。


 その瞬間。

 その獣人の目がくるりんと引っくり返り、意識が切れる。

 意外と、小心者だったようだ。

 ズボンにもシミが広がっていった。


「あーあ。かわいそうに」

 二人は笑いながら、仲良くギルドの方へ帰る。



 その頃ギルドでは、淑子が魔力計測用水晶で遊んでいた。

 虹色に光がうねり、とんでもなく輝いている。

「これは。ギルドマスターを呼んできます」


 受付さんが、走っていく。

 その間に、皆は逃げ出す。


「ここは、これで面白いな。いくつか異世界を探して、紐を繋いでおくか」

「「「さんせー」」」

 そんなことを言って、帰ったその晩。


 安心堂の部屋の中。魔力の紐を伝い、何かがやって来る。

 黒い穴から出てきたのは、うさ耳のお姉さん。


「妙な魔力を魔力を感じて、空間を開いたが。何だここは?」

 見たことのない物が大量に存在している空間。

「ダンジョンか、それとも高名な魔道士の館か……」


 そして、淑子と一緒に寝ている導男をみつける。

「これは」

 当然二人は、気配で目が覚めていた。


 侵入者がナニをするかと思ったら、いきなり導男の物を使い始める。

 兎だから……。


 騒動の起こる場所に、騒動の主がまた一人増え。

 長年人気ひとけが無く淋しかった安心堂は、ドンドンと賑やかになっていく。


「こんにちわ」


「うぎゃー」


「…………」



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お読みくださりありがとうございました。

十話でキリも良いため、本当に終了します。

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怪しい不動産屋 安心堂。ドタバタ話が今日もまた。  久遠 れんり @recmiya

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