第9話 その部屋には、恐怖が潜んでいた

「ねえ、水道って言うか、排水直せる?」

「排水? まあ条件にもよるが、簡単なものなら直せるぞ」

「じゃあお願い。下に住む女子大生が、困っているんだって」

 淑子の言った、女子大生に興味を引かれたわけではないが、適当に道具とモニター代わりのノートパソコンを持って部屋へ行ってみた。


 まずは、状態を見ないとな。

 女子大生の部屋を訪ねる。

「すみません。管理会社のものですが、水漏れがあるって聞いたので伺いました」

 少し中でガタガタバタバタ聞こえたが、女の子が出てきた。


 美人ではないが、かわいい子だな。

「電話をくださった、青木さん。えーと青木 唯あおき ゆいさんかな」

「そうです。中、見ますよね」

「はい、確認をしないと、手が打てませんから」

「でしたら、ちょっと待ってもらえますか」

 そう言って、部屋へ戻ってしまう。


 廊下で待つこと三十分。

「お待たせしました」

 案内されて中へ入ると、ワンルームの奥にうずたかく積まれた何か。

 台所側はすっきりしているので、荷物を寄せて毛布をかぶせたのか?


「こっちなんです」

 そう言って彼女が指をさすのは天井。

「はっ? 天井」

「そうです」

「それなら上だけど。上は誰も住んでいないな。さらに上か?」

 入居者リストと、マスターキーは持っているが。


「ちょっと四階をみてきます。しばらくはいらっしゃいます?」

「はい居ます」


 その日、淑子のお願いを、簡単に聞いてしまった俺を、殴ってやりたい。

 人生でも最高に近い恐怖を、その日経験してしまう。


「四〇三号室。これが真上」

 マスターで開けて、一歩踏み込んだ瞬間に鼻を突く腐臭。

「うわ鍵は閉まっているのに、誰か忍び込んだのか?」

 中へ入ると、部屋は綺麗だが、俺の目には見える。


 もう、いやになるような光景。

 だがこれは、過去の影像。

 部屋が持っている、記憶だろうか?

 本人さんも、ここに居るわけでは無い。


 部屋を、浄化魔法で綺麗にしてみる。


 浄化魔法は強力で、残っていた何かを消せたようだ。


 だが少しすると、カビ臭と何かが腐ったにおいが匂ってくる。


 台所をみると、少し床板が湿り剥げている。

「あちゃあ。配管つまりからの逆流か?」

 作り付けの、安ぽい流しの扉を開ける。


「ああ、カビね」

 そして、流しの排水はなぜか、床にある排水パイプに、流しから来る蛇腹ホースを差し込んだだけ。


「なんだこりゃ。匂いが上がってくるはずだ」

 流し側から、来ているホースを抜き、頭をつっこんで排水パイプをみるが、すぐ下で折れ曲がり先が見えない。


「だろうな」

 道具の中から、USBに刺すとそれだけで見られる、五メートルほどのファイバースコープカメラを取り出す。


 鼻歌交じりに、先端を差し込んでいく。

 きちんとライト付き。某通販サイトで三千円もあれば買えるものだが使い勝手が良い。


「うーん。この先が排水主管になるのか」

 横に走っているし、そう思ったらすぐに立て管が見えた。


 継ぎ手のところから、立て管に繋がる所に何かが詰まっている。

 そいつが、髪の毛まみれになり、水をこちらへ導いている。

 上から大量に水かが来ると、きっとかなり流れてくるのだろう。


 ファイバーで覗きながら、ブラシ付きのワイヤーで押してみる。


 何か堅いが、ぐしゃっと潰れ、落ちていった。

 なにかの骨っぽかったが、きっと気のせいだ。

 鉄筋コンクリートの建物に、ネズミは湧かないだろう。


 だが問題は、よく見たことのある奴が、立て管からこちらへ這い上がってきた。

 一匹や二匹ではない。

 ブラシで押すが、奴らもしぶとい。

 あわてて流しの排水ホースを配管に押し込み水を出す。

 だが出ない。

「しまった、外のバルブ」

 モニターでは、奴らがジタバタしながら、カメラの横を通り抜けてくる。


「やばい」

 排水パイプに手を当てると、水魔法を唱える。

 だが差し込んである、カメラやブラシのワイヤーでうまく行かない。

 あわてて引き戻すと、どうなるかはわかるよね。


 奴らは、ヤホーとでも言うように、パイプから出てくる。


 わしゃわしゃと。

 どうしてこんなに湧いているのかはわからないが、出てくるものは仕方が無い。

 シールドで囲い、空間魔法を適当に開いて、向こう側にポイした。


 やっとワイヤーなどが出てきたから、ためらいつつ再度水魔法を撃つ。

 きっちり密閉をしたから、今度は大丈夫。 

 他にも何か詰まっていた感触が、抜けた気がする。


 他の部屋で、トラップを抜けて空気でも上がったかもしれないが、問題ないだろう。トラップと言うのは、流しとかに付いている水たまり。

 配管をU字型にしたりして、そこに水を溜め配管側と室内の空気を水により遮断する。それにより、匂いなどが上がってこないようになっている。


「ああ、なんてこったい」

 配管から、わさわさ出てきていた光景が、目に焼き付いてしまった。


 どこか異世界に廃棄してしまったが、数十匹くらいだし、まあ大丈夫だろう。


 排水口のつなぎ目は、丁度エアコン用の穴埋めパテがあったから、隙間を埋めた。


「床は貼り替えだな」

 一応、流しにも水を流しトラップに水を溜める。

「すぐに乾燥するから、気休めだが」


 そして、もう一度彼女の所に寄り様子見をお願いする。

 天井のボードは修繕することを説明をして帰宅。


 後日、ビルの外で、配管を確認をすると、生ゴミなどが大量に流れていて、それに奴らが湧いていた。


 駆除をお願いして、一件落着だが。きっと誰かがトラップを外して、流しているのだろう。やめてほしい。

 その後しばらく夢に見た。


 一度寝ぼけて、魔法を撃とうとしたようだ……

「来るなぁ」とかいいながら。

 

 だが、どこかの異世界で、やつらは魔素を吸い。変異した奴らが、町を一つ食い潰し甚大な被害を出したことを、導男は知らなかった。

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